高橋源一郎『ニッポンの小説』

ニッポンの小説―百年の孤独 (ちくま文庫)

ニッポンの小説―百年の孤独 (ちくま文庫)

高橋源一郎が19歳の頃に失語症にかかり、それから20代はずっと肉体労働で生計を立てていたというのは有名な話だが、彼曰く、彼はその後もずっと失語症的な何かを抱えながら小説執筆や評論の活動を行ってきたことになる。そしてそのような中でもなお、本腰を入れて日本文学について語ろうとしたのが本書である。高橋源一郎自身が「小説とは何か」「文学とは何か」ということを自分でも理解していないというスタンスなので、読者としては読んでいてもわかるようなわからないような、そういうもどかしさを覚えてしまうのだが、そのもどかしさが心地良いというか、真摯な態度に見えるというか。

しかしいずれにせよ最近のわたしは、小説とは何かとか文学とは何かとかいったことにはほとんど興味を持てなくなってきた。面白い「物語」と出会えたらそれで良いではないかと。どこぞの評論家が以前、村上龍は小説的・村上春樹は物語的だと評していたが、まあそれならそれでも良いですよ別にというね。少なくともこれまでのわたしは村上龍も村上春樹も単に「面白いもの」「心が震えるもの」として受容し、それで何の不都合もなかったからである。あと10年……いや15年若く本書に出会っていたら、また違う感想を抱いたかもしれない。