山口周『外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術』

外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術

外資系コンサルが教える 読書を仕事につなげる技術

  • 作者:山口 周
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2015/10/20
  • メディア: Kindle版
わたしも「読書」には一家言ある人間である。

だからこそ痺れた。

運命の1冊と言って良い。

著者の主張は色々あるが、一人の本好きとしても、同じコンサルタントとしても、いちいち納得できるものばかりである。その中でもわたしが特に感銘を受けたのが、教養書を読むための「三度読み」と、ビジネス書を読むための「ビジネス書マンダラ」という考え方である。

まず教養書について。

著者は、本は使い倒してナンボという考え方である。だから何度も読むことを推奨する。また「哲学」「歴史」「心理学」「医学・生理学・脳科学」「工学(含コンピューターサイエンス)」「生物学」「文化人類学」の7領域を教養書の分類とするが、教養書の場合はいつどこで役に立つかはわからないし、そもそも人間は忘れてしまう生き物である。だから忘れても良い仕掛けを意識的に作りながら、何度も読む必要がある……それを踏まえての三度読みだ。まず一度目の読書では線を引く。面白い本であれば、色々な気づきがあるはずで、そこに線を引いたり書き込みをしたりする。二度目は有益な下線を5つに絞る。これは多すぎても良くない。どれが重要な箇所だろうかと見極めることも重要で、多くても9つに絞る。そして三度目は5つ〜9つに絞った箇所について「面白かった箇所」だけでなく「ビジネスや実生活に対する示唆」や「具体的なアクションの仮説」も踏まえてデジタル媒体(evernote等)に転記していく。著者はこれを情報のイケスと呼んでいる。ここまでやって情報のイケスに情報を放流したらあとは本の内容を無理に覚えなくとも、放流された5〜9箇所の情報がいつか役に立つ、という考え方である。

次にビジネス書について。

ビジネス書は仕事に直接的かつ比較的すぐに役立てるべきものであり、教養書以上に繰り返し読んで実践すべきものである。かつビジネス書の良書の主張は明晰である。だからいちいち情報の抜粋や転記といった「情報のイケス」作りをしない(すぐに使う情報を倉庫にしまう必要はない)。その代わり、本当に役に立つ本を厳選し、中心・基礎・応用という3つの考え方で長期戦略で何十回と読んでいくべき、という考え方である。中心は経営学の入門書的な位置づけ(コア)となる本で、基本と応用は各領域ごとの基本書と発展書。20〜30代は中心と基本を中心に熟読し、40代以降は自身の専門の応用書を熟読する……概ねそんなイメージだろうか。

まとめよう。

わたしはこれまで「数多くの本」と出会うことを重視してきた。手に取った本の数は世界の数であり、可能性の数である、そういう思いで本を読んできた。だからどうしても1冊の本を熟読したり、何十回と読み返すことは少なかったと思う。また読みやすい本を中心に読んできた。しかしわたしの読書数は記録に残っているだけで2500冊を超え、また最近は読書や読書記録としてのブログがルーティンワーク化してしまっていたこともあり、そろそろ読書人生の「転換」に差し掛かっているのではないかと思っていた。色々と考えていく中で整理された転換の方向性は2つで、「古典や難読書の熟読」もしくは「再読という名の熟読」である。すなわち乱読を排して、1冊を読むのに数ヶ月かかるような古典や難解な思想書に取り組むか、これまでに読んだ本をせっせと読み返す比率を高めるか。

果たして本書を読んだ結果、わたしの中で答えは出た。再読する。初読だけではなく再読の記録をつける。単に面白かった本ではなく、再読に耐え得る本、再読すべき本をリスト化する。自分なりのマンダラを作るのだ。要は本書で書かれていた内容の自分なりの実践である。

自分で言うのもアレだが、この試みを定着させることができたら、わたしはまた爆発的に成長するのではないだろうか。

久々に楽しみになってきた。

余談

本書の巻末付録に載っていた「ビジネス書マンダラ」を紹介しておく。著者は「超基本の6冊」に加え、「経営戦略」「マーケティング」「財務・会計」「組織」「リーダーシップ」「意思決定」「ゼネラルマネジメント」「その他(経済学/心理学/社会学等)」の8領域で基本書と応用書を数冊ずつ取り上げ、全71冊のビジネス書を紹介している。画像を見つけたので載せておくが、せっかくなので文字検索やAmazon移動がしやすいようリストを載せておく(最新版が出ている場合は原則最新版を掲載)。

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超基本

分類 著者名『書名』 Amazonリンク
超基本 相葉宏二『MBA経営戦略』 MBA経営戦略
超基本 グロービス経営大学院『グロービスMBAマーケティング』 改訂3版 グロービスMBAマーケティング
超基本 石野雄一『ざっくり分かるファイナンス』 ざっくり分かるファイナンス 経営センスを磨くための財務 (光文社新書)
超基本 協和醗酵工業+ソーテック社『人事屋が書いた経理の本』 人事屋が書いた経理の本
超基本 斉藤嘉則『新版 問題解決プロフェッショナル』 新版 問題解決プロフェッショナル―思考と技術
超基本 後正武『意思決定のための「分析の技術」』 意思決定のための「分析の技術」―最大の経営成果をあげる問題発見・解決の思考法 (戦略ブレーンBOOKS)

経営戦略

分類 著者名『書名』 Amazonリンク
基本 クレイトン・クリステンセン『イノベーションのジレンマ』 イノベーションのジレンマ 増補改訂版 (Harvard Business School Press)
基本 マイケル・ポーター『競争優位の戦略』 競争優位の戦略―いかに高業績を持続させるか
基本 大前研一『企業参謀』 企業参謀 (講談社文庫)
基本 沼上幹『経営戦略の思考法』 経営戦略の思考法
応用 ヘンリー・ミンツバーグ『戦略サファリ』 戦略サファリ 第2版 -戦略マネジメント・コンプリート・ガイドブック
応用 デイビッド・ベサンコ他『戦略の経済学』 戦略の経済学
応用 J・B・バーニー『企業戦略論』 企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続 企業戦略論【中】事業戦略編 競争優位の構築と持続 企業戦略論【下】全社戦略編 競争優位の構築と持続
応用 金谷治 訳注『新訂 孫子』 新訂 孫子 (岩波文庫)

マーケティング

分類 著者名『書名』 Amazonリンク
基本 ジェフリー・ムーア『キャズム』 キャズム Ver.2 増補改訂版 新商品をブレイクさせる「超」マーケティング理論
基本 エベレット・ロジャース『イノベーションの普及』 イノベーションの普及
基本 アル・ライズ+ジャック・トラウト『売れるもマーケ 当たるもマーケ』 売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則
応用 阿久津聡+石田茂『ブランド戦略シナリオ』 ブランド戦略シナリオ―コンテクスト・ブランディング
応用 ジャン・ボードリヤール『消費社会の神話と構造』 消費社会の神話と構造 新装版
応用 D・A・アーカー『ブランド・エクイティ戦略』 ブランド・エクイティ戦略―競争優位をつくりだす名前、シンボル、スローガン
応用 ジェームス・W・ヤング『アイデアのつくり方』 アイデアのつくり方

財務・会計

分類 著者名『書名』 Amazonリンク
基本 稲盛和夫『稲盛和夫の実学』 稲盛和夫の実学―経営と会計
基本 グロービス経営大学院『新版 グロービスMBAファイナンス』 [新版]グロービスMBAファイナンス
基本 リチャード・A・ブリーリー他『コーポレート・ファイナンス』 コーポレート・ファイナンス 第10版 上 コーポレート・ファイナンス 第10版 下
応用 トム・コープランド+ウラジミール・アンティカロフ『決定版 リアルオプション』 決定版 リアル・オプション―戦略フレキシビリティと経営意思決定
応用 マッキンゼー・アンド・カンパニー『企業価値評価』 企業価値評価 第6版[上]―――バリュエーションの理論と実践 企業価値評価 第6版[下]―――バリュエーションの理論と実践
応用 スチュワート・G・ベネット『EVA創造の経営』 EVA(経済付加価値)創造の経営
応用 河邑厚徳『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』 エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと (講談社+α文庫)

組織

分類 著者名『書名』 Amazonリンク
基本 戸部良一 他『失敗の本質』 失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)
基本 野中郁次郎+竹内弘高『知識創造企業』 知識創造企業
基本 ジム・コリンズ『ビジョナリーカンパニー2』 ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則
基本 スティーブン・P・ロビンス『組織行動のマネジメント』 【新版】組織行動のマネジメント―入門から実践へ
基本 ロバート・キーガン 他『なぜ人と組織は変われないのか』 なぜ人と組織は変われないのか――ハーバード流 自己変革の理論と実践
応用 ポール・ミルグロム+ジョン・ロバーツ『組織の経済学』 組織の経済学
応用 C・オットー・シャーマー『U理論』 U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術
応用 アルフレッド・D・チャンドラー『組織は戦略に従う』 組織は戦略に従う
応用 山本七平『「空気」の研究』 「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))
応用 E・H・シャイン『企業文化』 企業文化 改訂版: ダイバーシティと文化の仕組み
応用 司馬遼太郎『燃えよ剣』 燃えよ剣 上・下巻セット (新潮文庫)

リーダーシップ

分類 著者名『書名』 Amazonリンク
基本 本多勝一『アムンセンとスコット』 アムンセンとスコット―南極点への到達に賭ける
基本 リンダ・A・ヒル+ケント・ラインバック『ハーバード流ボス養成講座』 ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素
基本 アーネスト・シャクルトン『エンデュアランス号漂流記』 エンデュアランス号漂流記 (中公文庫BIBLIO)
応用 ハイエルダール『コンチキ号漂流記』 コンチキ号漂流記 (偕成社文庫 (3010))
応用 P・F・ドラッカー『マネジメント [エッセンシャル版] 基本と原則』 マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則
応用 ダニエル・ゴールマン『EQ こころの知能指数』 EQ こころの知能指数 (講談社+α文庫)
応用 ウォルター・アイザックソン『スティーブ・ジョブズ』 スティーブ・ジョブズ I
応用 ニッコロ・マキアヴェリ『新訳 君主論』 新訂 孫子 (岩波文庫)

意思決定

分類 著者名『書名』 Amazonリンク
基本 千住鎮雄『経済性工学の基礎』 新版 経済性工学の基礎―意思決定のための経済性分析
基本 マイケル・ルイス『マネー・ボール』 マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
基本 岡崎久彦『戦略的思考とは何か』 戦略的思考とは何か (中公新書 (700))
基本 マイケル・A・ロベルト『決断の本質』 決断の本質 プロセス志向の意思決定マネジメント (ウォートン経営戦略シリーズ)
応用 マイケル・A・ロベルト『なぜ危機に気づけなかったのか』 なぜ危機に気づけなかったのか ― 組織を救うリーダーの問題発見力
応用 キース・ヴァン・デル・ハイデン『シナリオ・プランニング』 シナリオ・プランニング「戦略的思考と意思決定」
応用 ダレル・ハフ『統計でウソをつく方法』 統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門 (ブルーバックス)

ゼネラルマネジメント

分類 著者名『書名』 Amazonリンク
基本 小倉昌男『小倉昌男 経営学』 小倉昌男 経営学
基本 ルイス・V・ガースナー『巨象も踊る』 巨象も踊る
基本 カルロス・ゴーン『ルネッサンス 再生への挑戦』 ルネッサンス ― 再生への挑戦
基本 西堀栄三郎『石橋を叩けば渡れない』 石橋を叩けば渡れない
応用 アルフレッド・P・スローン『GMとともに』 GMとともに
応用 リチャード・S・テドロー『アンディ・グローブ』 アンディ・グローブ[上]―修羅場がつくった経営の巨人 アンディ・グローブ[下]―シリコンバレーを征したパラノイア

その他(経済学/心理学/社会学等)

分類 著者名『書名』 Amazonリンク
基本 N・グレゴリー・マンキュー『マンキュー入門経済学』 マンキュー入門経済学 (第2版)
基本 ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器』 影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか
基本 A・H・マズロー『人間性の心理学』 人間性の心理学―モチベーションとパーソナリティ
基本 ダンカン・ワッツ『スモールワールド・ネットワーク』 スモールワールド・ネットワーク〔増補改訂版〕: 世界をつなぐ「6次」の科学 (ちくま学芸文庫)
応用 R・アクセルロッド『つきあい方の科学』 つきあい方の科学:バクテリアから国際関係まで (Minerva21世紀ライブラリー)
応用 ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』 ファスト&スロー (上) ファスト&スロー (下)
応用 M・チクセントミハイ『フロー体験 喜びの現象学』 フロー体験 喜びの現象学 (SEKAISHISO SEMINAR)
応用 エドワード・L・デシ『人を伸ばす力』 人を伸ばす力―内発と自律のすすめ
応用 ジェフリー・サックス『貧困の終焉』 貧困の終焉: 2025年までに世界を変える (ハヤカワ文庫 NF 404)
応用 アマルティア・セン『貧困と飢饉』 貧困と飢饉
応用 マックス・ヴェーバー(マックス・ウェーバー)『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』 プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

うーん入力くっそ面倒だったなあ。これまでに誰か一人ぐらい入力していたのではないか? 無駄なことしたかも?

閑話休題。改めてこのリストを眺めると、(未読の本を含めて)セレクションのセンスは高いと思った。しかしながら、わたしとしては、このリストをそのまま無批判に使うのは「愚」とは言わないまでも「並」だなと思う。決して「優」ではなかろう。著者が知らない良書もあるはずだし、自分の能力や問題意識に応じて追加・修正されるべきだと思うからである。情報のイケスを作る過程が重要だと上記で述べたのと同様、マンダラの分類やリスト本の選定そのものが重要だとわたしは考える。だからわたしは来年から自分なりのビジネス書マンダラを作っていこうと思っている。

例えばわたしなら、「組織」を「HR」に変更し(組織だけでなく人事も入れたい)、「リスク・ERM・統計」と「オペレーション・IT」を追加し、「意思決定」は「リーダーシップ」に統合してしまう。「ゼネラルマネジメント」も「リーダーシップ」に統合して良いかな。「その他(経済学/心理学/社会学等)」も長すぎるから少し文字数を減らそう。そうすると分類は「経営戦略」「マーケティング」「財務・会計」「リスク・ERM・統計」「HR」「オペレーション・IT」「リーダーシップ」「その他(経済学・社会学等)」の8つのままで、わたしのマンダライメージに近くなるかな。またマンダラの中心には、超基本の経営書というよりも、わたしの社会人としてのマインドセットに大きく影響を及ぼした自己啓発チックな本を入れておく。「どう働きたいか」がないとスキル構築などできないと思うからだ。さらにコアスキル系の書籍も中心だね。

肝心の書籍も、HRを中心に入れ替えたいものがあるし、読めてないものをマンダラ登録するわけにはいかないだろう。

面白くなってきた。来年1月から始められるよう準備しよう。