吉上亮『PSYCHO-PASS GENESIS 1』

PSYCHO-PASS GENESIS 1 (ハヤカワ文庫 JA ヨ 4-6)

PSYCHO-PASS GENESIS 1 (ハヤカワ文庫 JA ヨ 4-6)

以前ノイタミナ枠で放送された深夜アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』の小説版、その第3弾。本作は第4弾と合わせて前後編である。主人公はテレビ放送の第1期に登場した征陸智己(まさおかともみ)で、それ以外はほとんど小説オリジナルキャラクター、なのだが、違和感はほとんどない。TVシリーズの世界観をきちんと理解・継承し、膨らませているからだろう。

舞台は2080年から2090年ぐらい、厚生省が覇権を握って人々の人生を管理する「理想社会」が出来上がる転換期の話になる。征陸智己は当初、警察庁の刑事として特命捜査対策室として配属され、シビュラにより覇権を握ろうとする厚生省と警察庁の対立、警察庁内部の「旧い世界」を残したい勢力と「新しい世界」に移行したい勢力との対立、その狭間で社会正義を追い求めていく……というアウトラインだろうか。

TVシリーズを観た方は当然ご存知のように、結局警察庁は解体される。また本書でも警察庁による厚生省への抵抗は「最後の足掻き」であることが序盤から何度も示される。さらには、必ずしも警察庁が正義で厚生省が悪だと断定することもできない。正義と悪、その境界線は時代によって変わって然るべきである。

征陸智己はいわば「負け陣営」で「負け戦」をするようなものなのだが、自身が親爺と慕う八尋が暴挙の限りを尽くし、さらに混迷の度合いを深めていく。面白い。