ジェームズ・C・コリンズ+ジェリー・I・ポラス『ビジョナリー・カンパニー』

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジョナリー・カンパニー ― 時代を超える生存の原則

ビジネスパーソンやMBAの学生にとっての定番にして、ビジョンを語る際の基本書。一流企業と、時代を超えて何十年何百年と繁栄するビジョナリー・カンパニーの違いを炙り出した本と書いて、概ね間違いはないだろう。その違いも、詳しくは本書を読んでいただくのが確実だが、ビジョンに自覚的で、かつ利益ではなくビジョンを最大の行動原則にしている企業が「ビジョナリー・カンパニー」の要件と言えそうだ。

何はともあれ以下を引用しておきたい。

収益力は、会社が存在するために必要な条件であり、もっと重要な目的を達成するための手段だが、多くのビジョナリー・カンパニーにとって、それ自体が目的ではない。利益とは、人間の体にとっての酸素や食料や水や血液のようなものだ。人生の目的ではないが、それがなければ生きられない。

なお個人的には、メルクのエピソードが気に入っている。本書を最初に読んだときは毎日のように「とにかくカネ」と言われていたため、ことさら響いた。

 メルクが「糸状虫症」治療薬「メクチザン」を開発し、無料で提供した(略)
メルクがこの決定を下した理由を聞かれたとき、バジェロスCEOは、このプロジェクトを進めなかったら、メルクの科学者、「人々の生命を維持し、生活を改善している仕事をしている」と自負する企業で働く科学者の士気が低下していただろうと指摘している。そして、こう語った。
 十五年前、日本をはじめて訪れたとき、日本のビジネス関係者に、第二次世界大戦後、日本にストレプトマイシンを持ち込んだのはメルクで、その結果、蔓延していた結核がなくなったと言われた。これは事実だ。当社はこれで利益をあげていない。しかし、今日、メルクが日本でアメリカ系製薬会社の最大手であるのは、偶然ではない。長い目で見ると〔こうした行為の〕結果は、必ずしもはっきりとは表れないが、なんらかの形で必ず報いられると思っている。