安藤俊介『アンガーマネジメント入門』

アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)

アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)

日本アンガーマネジメント協会の代表が書いた本。

色々なことが色々な表現で書かれているが、わたしなりの理解も含めて、すごくシンプルに書く。

怒りという感情ないし行為は、反射ではない。膝を金槌でコンコンされて自分の思いとは無意識に足がピクンと跳ね上がるような類のものではない。脊髄反射のように怒る人がいるが、それでも何らかの「怒りの事象」があって、それを自覚的・無自覚的の差はあれど「事象に対して、これは怒りに値するという認識や価値判断」をした上で、「怒るという行為」に及んでいるわけである。

これらを理解した上で、わたしたちが「怒り」をコントロールしようとしたとき、まず我々が「怒りの事象」そのものを完全に防ぐのは困難である。部下がミスをすること、後輩が生意気な口を聞くこと、友達だと思っていた人間が裏切ること……これらは普段の行いによってある程度防ぐことはできるものの、絶対に防げるわけではない。そうすると、怒りのコントロールというのは、二番目の「事象に対する認識や価値判断」を変えるか、三番目の「怒るという行為」を変えるのが現実的である。

二番目については、思わず怒ってしまうような事象を目の当たりにしても、一度「認知」を変える努力をしてみるということだ。例えば、部下がヘマをした時、相手がクソ無能だからこんな事象が起こったのだと瞬間湯沸かし器のように怒らず、自分の指示出しが悪かったのではないか、普段の育成が甘かったのではないかと、自責の心で冷静に見つめてみる。もちろん難しいのだが、冷静になれば、感情的に怒ることは逆に難しい。

三番目については、怒りの感情そのものを抑えられなくとも、それを表に出さない/出づらいようにする。怒鳴り散らすのではなく、静かに怒る。相手を罵倒するのではなく、君のおかげで自分ががっかりしたという言い方で怒る。皆の前で怒るのではなく、一度トイレにでも行って誰もいないところで怒る。

余談

わたしは以前、会社で受けた部下マネジメント研修の一環でアンガーマネジメントの解説を受けたことがあるのだが、その際に産業医だか精神科医だかの人が教えてくれた「怒りの感情を抑制するアイデア」が「なるほど!」と思ったので紹介しておく。

方法は簡単で、あらかじめ自分の子供やペットの写真を携帯電話の画像フォルダの中に入れておき(スマホがなければ財布や名刺入れの中でも良い)、怒りの感情が起こった瞬間に、トイレにでも駆け込んで(最悪その場でも良いだろう)、その写真をしばらく(10秒とか20秒とか)見つめるようにするというものである。そのときに、子供やペットと接していたときの幸せな感情を必死で思い出そうとするとともに、ここで怒鳴り散らしてパワハラ認定されるリスクに思いを馳せる。そうすれば、どんなに怒っている人でも、今から「部下のため」だとか言って感情を爆発させることが非情に馬鹿らしくなるそうである。

もちろんわたしのように独身の場合は、友達や彼氏彼女の写真でも良いだろうし、年老いた親の写真でも良いだろう。要するに「自分は誰のために金を稼いでいるのか」「自分は職場以外にどんなコミュニティを持っているのか」を思い出し、自分の人生は会社の中だけで完結しているわけではないことを思い出す、ということなのだろう。

自分のように根無し草のその場しのぎの人生だと、そういう「自分」以外の大切なものをもっとしっかり作っておくことが重要なのだなと思い知らされるよね。『嫌われる勇気』の続編である『幸せになる勇気』でも、結局のところ、自分の人生が「わたし」から「わたしたち」になることが、全ての悩みからの解放なのである、と言っていた気がする。
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