米国戦略諜報局(OSS)+越智啓太+国重浩一『サボタージュ・マニュアル 諜報活動が照らす組織運営の本質』

サボタージュ・マニュアル: 諜報活動が照らす組織経営の本質

サボタージュ・マニュアル: 諜報活動が照らす組織経営の本質

まず「OSS」は、とりあえず「CIAの前身」だと思ってもらえれば良いだろう。CIAの実態を100%知っている方はわたしも含めほとんどいないだろうが、CIAがアメリカの国益のために様々なスパイ活動に従事していることは、多くの人が映画や小説などの情報から何となく知っていることだろう。本書は、CIAの前身であるOSSが、第二次世界大戦時に(敵国であるドイツなどで)スパイ活動を実施するために策定したマニュアル、その解説本である。

スパイ活動と言っても大袈裟なものではない。これは公衆トイレといった社会インフラや会社組織・工場などのあらゆるところで小さなミスや非効率を発生させ、意思決定や効率的な経済活動を邪魔していくという「草の根運動」的なスパイ活動である。そしてそれを一言で書くと「サボタージュ(怠業)」という訳である。

もちろん草の根運動と言ってもスパイ活動の手引きであることには変わりがなく、長年秘密文書とされていたのだが、2000年代に入って一般の人でもこのサボタージュ・マニュアルを読めるようになった。そして一部の英語の読める日本人の間で「これは日本の官僚組織そのものではないか」と話題になり、ブログ等で紹介され、話題になったのである。

chikawatanabe.com

「規則を隅々まで適用せよ」「重要な仕事をするときには会議を開け」「細かな様式や言葉尻にこだわれ」「一度決まったことでも蒸し返せ」などなど……うーむ、このあたりは何度読んでも唸ってしまう。組織を効率的に回すための「手段」であったはずのルールやプロセスを、それ自体の遵守を「目的」化させることで、組織はここまで破壊されるのだと。