米澤穂信『さよなら妖精』

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

元々は古典部のシリーズものとして書いたようだが、色々あって古典部ではない形で出版することになったようだ。

その色々とは、作者的にはまさに「色々」なのだが、読者的に最も重要なのは、作品の持つトーンである。古典部シリーズは「日常の謎」をモチーフとした作品であり、高校生ならではの成長や葛藤・挫折などが描かれている。

一方、本書もやはり日本の高校生たちが主人公なのだが、高校生活ではなく、ユーゴスラビアの史実をモチーフとした作品である。

ユーゴスラビア紛争 - Wikipedia

ユーゴスラビア紛争では文字通り多くの血が流れた。皮肉にも当時のユーゴスラビアは殺し合いが「日常」だったわけだが、これはとてもじゃないが「日常の謎」とは言えない。詳細は実際に手に取って読んでほしいが、けっこうヘビーな作品である。わたしは文字通り頭を殴られるような衝撃を受けた。こう来るかー。

なお、本書のヒロイン(の一人)である太刀洗万智は、新聞記者やフリーのジャーナリストになっており、『王とサーカス』や『真実の10メートル手前』で主人公を務めている。すなわち本書は、太刀洗万智シリーズの前日譚と言って良いだろう。