津川友介『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

『「原因と結果」の経済学』の共著者であるということもあって、何となく気になり、発売前からKindleで予約していた本。

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本書は、信頼できる複数の研究成果を踏まえて「健康に良いと考えられる食品と」「健康に良くないと考えられる食品」を具体的に挙げるとともに、その根拠(エビデンス)を紹介した本である。

 数多くの信頼できる研究によって本当に健康に良い(=脳卒中、心筋梗塞、がんなどのリスクを下げる)と現在考えられている食品は、①魚、②野菜と果物(フルーツジュース、じゃがいもは含まない)、③茶色い炭水化物、④オリーブオイル、⑤ナッツ類の5つである。逆に、健康に悪いと考えられているのは、①赤い肉(牛肉や豚肉のこと。鶏肉は含まない。ハムやソーセージなどの加工肉は特に体に悪い)、②白い炭水化物、③バターなどの飽和脂肪酸の3つである。

本書のほぼ冒頭で書かれている上記の引用部分が、まあ結論と言えば結論である。これに、魚の場合だと「魚がなぜ良いか、どのようなエビデンスでそれが証明されたと言えるのか」をしっかり説明するし、逆に赤い肉の場合であれば「赤い肉がなぜ悪いか、どのようなエビデンスでそれが証明されたと言えるのか」をしっかり説明して、さらにコラムで「グルテンフリーってどうなの」「カロリーゼロってどうなの」「日本食ってどうなの」といった読者が気になるであろう点に対して追加の説明を行う、というのが基本的な本書の構成になる。

わたしは、幾つかの点から、本書は非常に独自性があって面白いと思った。とりあえず3つぐらい挙げておこう。

1点目は、医師としての信念や体験談ではなく、あくまでも根拠(エビデンス)を重視するという姿勢である。

例えば本書では、食品を5つのグループに分けている。エビデンス的に健康に良いと考えられるという結論が出ているグループが1で、ちらほら健康に良いと考えられるという研究結果も出ているねというグループが2。逆に、エビデンス的に健康に悪いと考えられるという結論が出ているグループが5で、ちらほら健康に悪いと考えられるという結論が出ているグループが4。最後に、健康に良いとも悪いともにわかに言えないグループが3となる。これはすなわち、巷では何となく健康に良いと思われている食品であっても、信頼できる研究結果が揃っていない限り、その食品はグループ3である。

なぜこれが独自性があって面白いか? 正直あまり言いたくないが、日本という国は食や健康に対してとにかく個人の「体験談」や「思い込み」が非常にまかり通っている。そしてマスコミの過剰な煽りがそれに拍車をかけている。だから何かちょっとテレビで紹介されるとおバカな大衆がワーッと群がって商品を買い尽くし、しばらくすると飽きて元に戻る、その繰り返しが延々見られるのである。あー、嫌な話になったから元に戻す。

2点目は、著者が「栄養素単体」ではなく「摂取の仕方」に目を向けている点である。

著者は、リコピンが良い悪いだの、βカロテンが良い悪いだのといった説明の仕方はしない。栄養素単体で健康を語るべきではないと考えているからである。事実、それを裏付ける研究結果が出ている。例えば、果物は健康に良いが、フルーツジュースは健康に良くない(血糖値を急激に上げて諸々のリスクを引き上げる)ことが証明されている。また、上記で書いた「茶色い炭水化物」と「白い炭水化物」も同様だ。著者は玄米や蕎麦といった精製度の低い炭水化物を「茶色い炭水化物」と呼び、白米や小麦粉といった精製された炭水化物を「白い炭水化物」と呼ぶ。どちらも炭水化物じゃないかという話だが、研究結果では精製の度合いで健康に対して与える影響に顕著な差が出ていることがわかっている。フルーツジュースも白米も、食物繊維が取り除かれているため「砂糖の塊」みたいになって血糖値が跳ね上がりやすい、というのが大きな原因のようである。しかし、だからと言って白米と難消化性デキストリンを一緒に摂取すれば良いというような単純な話でもないらしい。

なお、これは本書に書かれていたことではなく、個人的な想像なのだが、白米と難消化性デキストリンを両方摂取すれば良いよねというような単純な話にならないのは、「微量栄養素」が大きいように思う。微量栄養素というのは、タンパク質やビタミンCといったものと違い、食品に微量にしか含まれていない栄養素のことを指す。この微量栄養素の中には、まだ効果が科学的に十分に解明されていないものや、そもそも認識されておらず名前がついていないようなものも多くあるそうだ。サプリメントだけでは駄目で食品から栄養を摂取すべきというのは、サプリメントにはこの「まだ名前もついていないような微量栄養素」が入っていないからだと思う。

3点目は、著者は健康に良いから摂取すべき、健康に悪いから摂取すべきでない、と単純には言い切っていない点である。

砂糖や白米は体に悪かろうが、それを食べられないストレスで体調が悪くなっては元も子もない。わたしが読む限り、著者のスタンスは、まずは冷静にエビデンスという基準で食生活を見直してみてはどうだろうか、といった程度である。押し付けがましくないのは良いね。医師だの健康アドバイザーだのが、ろくに検証もしていない事柄をしたり顔で語るのは、(たとえ事実だとしても)正直あまり好きになれない。

余談

勝間和代が本書を読んだらしい。最近の勝間和代は、一時期のドヤ顔重視の振る舞いがなくなり、ナチュラルな感じである。はてなブログに来たぐらいから、高感度が上がってきた。

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