清武英利『プライベートバンカー 完結版』

プライベートバンカー 完結版 節税攻防都市 (講談社+α文庫)

プライベートバンカー 完結版 節税攻防都市 (講談社+α文庫)

文字通り、プライベートバンカーについて取材した本。プライベートバンカーとは、いわゆる超富裕層に対する資産運用をする人々である。時には秘書みたいなこともするし、時には脱税まがいのこともする……という認識だったが、そのとおりの人種であった。

本書でスポットライトが当たっているのはシンガポールで働くプライベートバンカーである。金持ちは、金持ちであることを維持したいようで、特に相続税周りの税制に敏感だ。子孫により高額の財産を残して、自分の遺伝子(遺伝子だと思い込んでいる何か)をより広く残したいという思いがあるようで、せっせとタックスヘイブン国や準タックスヘイブン国に資産を移したり、日本では認められない保険に手を出したりする。

少し脱線するが、わたしは税金や貧富については一貫した考えを持っていて、「たくさん稼ぐことは善であり、一生懸命働いて稼いだ人が損をしないよう、所得税や法人税は極力小さく、もしくは廃止すべきだ」「金持ちが金持ちのままで固定化されないよう、金融資産課税の導入、不動産登記制度の抜本改革、相続税の強化が必要だ」と思っている。税金は要するに、すべての人が安心して暮らせるように、貧富の格差の是正と、個人や企業ではできない公共性の高い事業や規模の大きな事業を行うために使われるべきである。なら、まずは貧富の差を解消するために金持ちから税金を巻き上げるのが当然なのだが、なぜか日本では金持ちではなく、金を稼いだ人から税金を巻き上げることになっている。おかしいよね。汗水垂らして働いた人間から4割も所得税を抜き取っておきながら、(金融)資産課税がなぜ行われないのか、本当に理解に苦しむ。少し前に流行ったピケティの言っていることはこの一点に集約されると言っても過言ではないはずなのに、なぜか政治家からも有名ブロガーからもこんな話は全然出てこない。ほとんどの人間はブームに飛びついただけで、誰も真面目に本なんて読んではいないのだ。

閑話休題。わたしからすると、かなり恵まれている存在である超富裕層の財産が、こうしたプライベートバンカーの暗躍によって不当に守られ、貧富の差を固定化していくわけだから、正直読んでいて面白い話ではなかった。しかし、こんな生活があるんだなということを知れて良かったとは思う。ちなみに、ここで出て来る「こんな生活」とは、シンガポールの税制基準で(つまり、ユル〜い税率で)家族や子供に資産を受け渡すには、1年のうちの半分以上をシンガポールで暮らし、それを5年間続けなければならないということだ。逆に言えば、5年間つまんない思いをすればシンガポールの税制が適用されるわけで、金持ちは皆不幸な顔をしてシンガポールで5年を過ごすのである。アホじゃないかと思う。せっかくある金を、社会のためどころか自分のためにすら使わない。本書のラストでは、この5年という基準が10年に伸びたことが書かれていたが、金に執着することで不幸になる典型例だね。