鈴木祐『最高の体調 ACTIVE HEALTH』

最高の体調 ACTIVE HEALTH

最高の体調 ACTIVE HEALTH

前半が食生活のような話だが、後半から急にメンタルの健康に踏み込んでくる。良くも悪くも一冊じゃないみたい。

前半について

前半部分は「炎症」がキーワードだろう。何をすれば健康で長生きできるかというエビデンスは多種多様だが、極論すると、「炎症」の少ない人間ほど老化が遅くなり体調も良く、長生きできるというエビデンスには首肯せざるを得なかった。個人的には、狩猟採集民のようなシンプルな食生活をする「パレオ・ダイエット」が非常に気になっている。

付け加えると、パレオ・ダイエットと直接紐づくわけではないが、やや関連するものとして、わたしは最近、フルーツの効能が凄く気になっている。糖質制限やカロリー制限の名の下に虐げられがちなジャンルだが、とにかく美味いし、ぜいたくな気持ちになる。昔の人はフルーツを食生活に上手く取り入れて栄養的にも心理的にも「ご褒美」を上手く摂取していたように思う。それに人間の腸の長さや歯の形状からは、かつてのヒトがフルーツを中心に食べていたのではないかという仮設も出てきているようだ。

後半について

後半は、ややTIPS的なものが多いのだが、気になったものを思いつくままに挙げておく。

集中力の感覚

ハイパフォーマーの仕事を分析すると、50分働いて10分休むみたいな、わたしの理解では要するに「タスクやゴールを短く切って短時間で集中する」ことが重要であると理解した。これは最近わたしも意識していることで、もう一つの効能として「疲れを感じる前に休む」ということでもある。疲れちゃうと、単純労働はやれても知的労働はやれない。

パーソナルプロジェクト分析(PPA)

これは要するに、自分が抱えるプロジェクト(取り組むべきこと)を細かく分析し、より幸福度が高まりやすい行動を増やしていくにはどうすれば良いかという考えで分析していくボトムアップ型の自己分析メソッドだ。これは意外に目からウロコと言うか、「人生の満足度を高めるための自己分析」に特化している点で、自分の性格を知るだの本当の自分を知るだの得意分野が何だのといった分析よりも、わたしは使い勝手が良いと思った。

PPAの手順は大きく3点で、まず「いま自分が取り組んでいるプロジェクト」のリストアップである。これは「お菓子の量を減らす」「部屋を掃除する」といった日常的なタスクでも、「TOEICで900点を取る」「営業成績1位を目指す」のような中長期の目標でも、「もっと良い人間になる」といったふんわりとした願望でも良いそうだ。とにかく自分が現時点で取り組んでいることは全てプロジェクトであり、PPAの提唱者によれば平均15種類のパーソナルプロジェクトに取り組んでいるそうだ。

次に、思いつくだけ挙げたプロジェクトの中から自分が重要だと思うものを直感で10個だけ選択し、「重要性」「簡単さ」「透明性」「管理性」「責任」「時間適正」「成功率」「自己同一性」「進捗状況」「やりがい度」「没頭度」「支持レベル」「自律性」といった尺度で採点する。これらの合計点数が高いものほど、自分にとって重要なコアプロジェクトになる(なお、わたしは面倒くさいのでこの採点は直感でやることにした。)

最後に、コアプロジェクト5つに対して、「このプロジェクトを含むもっと長期的なプロジェクト、またはもっとスケールが大きいプロジェクトはなにか?」「そもそも自分はなぜこのプロジェクトをやっているのか?」といった質問を投げかけて、自分の真の価値観を探り出す。要するに、トヨタでやられている「なぜなぜ分析」をするということだ。なぜなぜ分析と同様、コアプロジェクトの目的を5回ぐらい深掘りすると、自身の価値観と呼べるようなものにぶち当たるそうだ。

3のルール

上記で書いたパーソナルプロジェクトを取り回す考え方として有用。よく「マジックナンバー7」と言われるが、より厳密な調査の結果、現在では「4±1」が短期的な記憶の限界だと言われているそうだ。こうした人間の認知能力の限界を踏まえて、やるべきことをとにかくシンプルにするのが「3のルール」だ。

  • 今日やり遂げたいことを毎朝3つ書き出して実践
  • 今週やり遂げたいことを週の頭に3つ書き出して実践
  • 今月やり遂げたいことを月初めに3つ書き出して実践
  • 今年やり遂げたいことを年始に3つ書き出して実践
  • 毎週末にレビューを行い、うまく行った点を3つ、改善点を3つ書き出す

このあたりでわたしは、本書で繰り返し述べているポイントは、だらだらやらず、フォーカスしようぜ、ということだと理解した。では、フォーカスするとは何か? それは本書で書かれている言葉を用いるなら、未来と現在の心理的距離を縮めることである。自分のタスクやプロジェクトを何のためにやらなければならないのかを明確に理解するには、具体化が必要で、具体化するには時間軸を短く、タスクをより具体的にしなければならない。プランニングとは、イメージできるものでなければならない。「英語の勉強をする」ではなく「英単語を覚える」であり、「○○の単語帳の1から100を覚える」であり、「イメージを噛み締めながら全ての単語の音声を聞き、発音することを繰り返して意味を定着させる」である。

しかしながら、現実というのは複雑であるが、複雑なものを複雑なまま記述していては何をして良いかわからない。一方、上記例のように具体化しすぎるのが常にベストかと問われると、時と場合による。具体化をすればするほど、やることはシンプルになるが、管理が複雑になる。

イフゼンプランニング(if-then planning)

イフゼンプランニングは、上で書いた「未来と現在の心理的距離を縮める」ためのテクニックで、これも実生活に応用しやすいかなと思った。テクニックと書いたがやり方はシンプルで、自分が決めたプロジェクトについて「もしXが起きたら、Yをやる」といった形式で、実効タイミングをルール化しておくだけである。

  • 6時になったら掃除をする
  • 月曜になったら会社の帰りにジムに行く

トリガーになる条件を必ず紐付けて管理するだけなのだが、ある研究によるメタ分析では、イフゼン・プランニングによる効果量は0.65だとされている。0.65というのはかなり高い効果量で、わたしの理解では0.5で「相当高い」と言える状態である。トリガーを紐付けるだけだし、色々と応用も効くので、ぜひ色々と日々のタスク管理に紐付けてみたい。なお、応用とは、条件をやや複雑にして2段構えにしたり、時間ではないものをトリガーにしたり、やる気が無くなるといった曖昧なものをトリガーにしたり、といったことが本書では挙げられている。