『世界の聖域〈13〉 聖山アトス』

世界の聖域〈13〉聖山アトス (1981年)

世界の聖域〈13〉聖山アトス (1981年)

1981年に発売された図鑑チックな本。Amazonでは古書扱いになっている。

アトスというのは、わたしが何十回と読んだ愛読書『雨天炎天』の旅先のひとつであり、ギリシャ領域内にありながら概ね自治を認められている宗教国家みたいなものである。

アトス山 - Wikipedia

アトス自治修道士共和国 - Wikipedia

ここでは俗世と切り離された僧侶たちが「日々を祈りと労働に捧げる」という、何百年、下手をしたら千何百年と続く変わらぬ営みを続けている。女人禁制で、家畜ですら雌は入ることができず、ネズミを捕獲する猫だけが唯一「女人」として入ることができるという徹底ぶりである。

ところで、フェミニズムな方々やグローバリズムとやらは例によってこれにも反感を示しているそうで、Wikipediaによれば、欧州議会は2003年に男女均等指令に従って撤廃するよう要請している。しかし、全人格を賭して生涯を祈りに捧げ、家畜にまで「女人禁制」を厳しく守ろうとする人たちの世界に、果たして女性が入ってどうするのだろうか。男女平等を説くつもりか。それこそ傲慢というものだろう。わたしは、世界に幾つか、伝統的に女人禁制の場所があったところで構わないと思っている。それを男女差別主義者だとラベリングするならご自由にどうぞ。しかし、もちろん、わたしは世界に幾つか男子禁制の伝統が撤廃されずに残っていたところで文句は言わない。今だってトイレも銭湯も男女で分かれ、女性専用車両も男子禁制で、女性モノの下着売り場も男性単独では実質的に入ることができないのだ。独身中年男性に至っては存在自体が半ば異常者としてレッテルを貼られており、独りで公園でトレーニングするだけで職質され、小学校の近くで落とし物を拾っただけで事案扱いになる時代である。今さらひとつやふたつ、男子禁制の伝統が残っていたところで何の不都合があろうか。この手の伝統施設・宗教国家に男女平等だの男女同権だのを求めるのは間違っているとしか言いようがない。

閑話休題。とにかく凄いとしか言いようのないような光景が広がっている。1981年の出版だが、今もそう変わっていないだろう。凄いというか何というか。美しいというのとは、ちょっと違う。圧倒されるというのかな。村上春樹が「ハードボイルド」と形容したのが、わりにしっくり来る。