成毛眞『Amazon 世界最先端の戦略がわかる』

amazon 世界最先端の戦略がわかる

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我々の、というかわたしの生活に深く入り込んでしまったAmazon。しかしAmazonのトップであるジェフ・ベゾスは秘密主義で、あまり自分たちの会社のことを語ろうとしない。なので著者がAmazonのサービスや戦略を1冊費やして解剖する、というのが本書の趣旨である。ひとつひとつのサービスや、利益にこだわらず莫大な設備投資を続けていること、各国で税金を払わないという問題があることなどは既に知っていたが、こんな感じで改めてまとめてもらえると「やっぱりAmazon凄いなあ」という気になる。

一点、非常に興味深かったのが、Amazonは会計士の先生や経営学の教科書が正解だと言いそうな「利益額」だの「利益率」ではなく、「売上」や「シェア」にこだわってビジネスを圧倒的に伸ばしているのだが、それは80年代の日本企業のやり方と同じではないか、という指摘である。確かに昔の日本企業は売上やシェアにこだわっていた点で、今のAmazonと通ずるところがある。その意味で、当時の売上重視・シェア重視の経営が日本企業の長期停滞を招いたとは言えず、著者の指摘は鋭いなと思った。しかしこの指摘だけを聞いて「やっぱり昔の日本企業はすごかったんだヒャッホー!」と80年代の日本企業を礼賛できる人は相当おめでたい頭に違いない。当時の日本企業の経営と今のAmazonの経営は同じではないことは、誰にでもわかることだからだ。そして何が違うのかと問われれば、やはり、本書でもページを割いて説明されている「キャッシュフロー経営」の有無だろう。何が成長や収益の源泉になっているかを見極め、そこにリソースを集中投下する。「選択と集中」と呼ばれる経営戦略の基本事項をAmazonは徹底的にやっており、当時の日本企業はできていなかった。Amazonは「競合を潰して傘下に収めるため」だけに数百億円もかけてサービスを立ち上げる一方、日本はふんわりと多角化経営を続け、バブルが弾けてもなお相当長い間、目を覚ますことはなかったのだ。