小川一水『天冥の標Ⅹ 青葉よ、豊かなれ PART3』

天冥の標? 青葉よ、豊かなれ PART3 (ハヤカワ文庫JA)

天冥の標? 青葉よ、豊かなれ PART3 (ハヤカワ文庫JA)

小川一水が10年がかりで「全部盛り」で書き切った長編SFシリーズ、その本当の最終巻。

全10巻だが全10冊ではないという驚きの設定で、何と簡潔に要した冊数は全17冊。そして繰り返すが、10年がかりの執筆。

作者にはお疲れ様でしたと言いたい。

わたしはとにかく感動した。

ただAmazonのレビューを読むと、

「子どもを作れる男女カップルが一番良い」というメッセージで終わってしまって残念でした。

という謎の感想が目立つ位置にあって、これこそ本当に残念だ。

未読の方に少しだけ書いておくと、本書はそんなこと全然言ってない。

端的に、主人公は性別を超えた愛を肯定しているし、一夫一妻制に基づかない愛も肯定している。ヒロインは既に外見上は人間ではないわけだが、主人公は外見にとらわれない愛も肯定した。主人公以外に目を向けると、人間とアンドロイドの愛も描かれているし、それ生物なのかといった気体の生命との絆すら肯定している。植物型の知的生命の幼女といった謎のフェチ属性すら開発してしまった。そんな何でもありの愛と絆を描いた本作に「子どもを作れる(すなわち出産適齢期の同じ種族同士の)男女カップルが一番良い」なんてメッセージなどあろうはずもない。

もう少し言おう。そもそもわたしは物語を「子どもを作れる男女カップルが一番良い」だの「愛は素晴らしい」だの「家族は良い」だのいった、この手の単純なメッセージに還元して理解しようとする姿勢が大嫌いだ。そういう単純なメッセージに還元できないことがあるからこそ、人は物語を求める。全17冊の答えが、そんな単純なメッセージであるはずがないよね。何が書かれているかって? 物語そのものです。