三室克哉+鈴村賢治+中居隆『「科学的」人事の衝撃』

「科学的」人事の衝撃

「科学的」人事の衝撃

野村総研を経て、プラスアルファコンサルテイングという会社を立ち上げた方たちによるHRテックの本。

いきなり横道にそれるが、わたしのコンサルタントとしての強みは、領域的にはリスク管理とHRである。両者の関連性がないよねとよく言われるが、わたしの中では「経営リソースの最適化」という点で実は繋がっている。リスク管理は、数式マンみたいな人が大勢いる中で、極力エッセンスだけを取り出し、しかも若干ファジーに(と言って語弊があるなら文系的に)解釈し、リスク管理を経営判断にどう活かしていくかの支援をよくやっているし、これを突き詰めたいと思っている。一方、HRは、勘や経験がはびこる人事マンの世界の中で、どのように合理的・科学的にHRを変えていくかという点に取り組んでいる。いわば、理系的なリスク管理を文系的に、文系的なHRを理系的に捉えるという、逆張り精神で働いている。

その意味で、HRテックだのデータ人事だのピープルアナリティクスだのという潮流は全体的に歓迎するし、応援したいし、勉強させてもらいたいと思っている。そこは信じてほしい。

だが、この数年ほんとブームのようにこの手の本が出版されるのだが、中身を読むと、HRテックだのデータ人事だのと言っているものが、別に大して新しくないよね、と思うことが本当に多い。本書でも「マインド分析」「スキル分析」「モチベーション分析」という切り口で書かれているが、単に事業法人の人事部の意識が低かったか忙しかったかの理由により取り組んでいないだけで、多くは下手すればExcelでもやれるようなことが多い。本書で紹介されている「社員の類似性の把握」「モチベーションの時系列分析」「人材ポートフォリオ」についても、本当に全て専門のシステムや最新の技術が必要なのかと問われると首を傾げざるを得ない。わたしは(もちろん技術的に未熟だったかもしれないが)10年以上前にExcelで自力で実装したのだが。ただし「テキストマイニング」はExcelではできないものの、人事分析においてテキストマイニングにどの程度の効果があるのかはよくわからない。

唯一、ビッグデータの活用については最近の技術進化を踏まえた面白いソリューションであるとわたしも思う。ただこれも、実はビッグデータとは名ばかりで、単に社内の活用する情報を増やしているだけというのが多い。例えばスキル分析や行動データ分析も、社内の未熟な人材を何百人・何千人分析したところで、これまで見えてこなかった本当に凄いものが見えるのか? 甚だ疑問だ。これは本書がどうこうというよりは、わたし自身が今、仕事をしながら感じている問題意識なのだが。