白川克『リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書』

リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書

リーダーが育つ変革プロジェクトの教科書

本書はケンブリッジテクノロジーパートナーズというIT系のコンサルティングファームのコンサルタントが書いたものだが、このケンブリッジという会社には単なる「IT系ファーム」にはとどまらない魅力があり、実はもう8年ぐらい着目している。ファンと言っても良い。その理由は2点で、ひとつは「企業変革やファシリテーションに精通していること」で、もうひとつは「そのノウハウを書籍で惜しみなく公開すること」である。

コンサルティングファームやコンサルタントが本当にノウハウを持っているかを(たまにいるコンサル嫌いの方に)ふんわりと問われると、わたしは自身を持って「ある」と答えることができる。しかし実はそのノウハウの中身が問題で、明確に方法論があるかと問われると、多くの場合、その方法論はあくまでもコンサルタント個人だけが持っているものだと思う。ファーム全体では、過去のプロジェクト事例やソートリーダーシップ事例がパワポに落ちており、各コンサルタントはその資産に(部分的に)アクセスできるだけである。優秀な個人が蓄積した「知識」や「方法論」が部分的にパワポに落ち、さらにその一部が「ナレッジ」として検索可能な形でコンサルタントが利用できる……これが「ノウハウ」の実態である。つまりノウハウの多くは結局個人レベルに留まっている。コンサルティングファームを使い慣れている事業会社はそのことをよくわかっているから、コンサルティングファームとしての実績を話半分で聞きつつ、プロジェクトに参画するコンサルタントそのものをチェックするのである。

わたしは大手からスピンアウトしたベンチャーファームを経て、今はいわゆる大手コンサルティングファームで働いているが、他の方の話を聞いても、大抵のファームで同じような状況だと思う。

一方、例外もある。それがケンブリッジという会社で、ここは自分たちのノウハウを(全部かどうかは知らないが、彼らの言葉を信じるなら一応)惜しみなく公開し、またクライアントにも無料で教えている。そのことでクライアントが成長して、自立運営できるようになり、コンサルティングファームの支援が不要になることを「是」としているのである。そのことが評判を生んで他社から依頼が来たり、あるいは同じ会社からより高度なテーマの依頼が来るようになるから、今度はそこでお仕事をすれば良いだろう……というビジネスモデルなのだが、わたしとしては「全くその通り!」と思えるほど共感している。コンサルティングファームの多くはリピート受注を重視し、できるだけコンサルティングファームを隅々まで活用してほしいと思うものだが、わたしは長年それは「クライアントの自立をスポイルしているだけだ」と思っている。ダラダラと続けず、コンサルタントの支援の結果クライアントは自立運営できるようになり、また次のチャンスで新たなコンサルティングを行う。これが気持ち良い支援関係だと思うのだが、現状大半のコンサルティングファームのビジネスモデルはそうなっていない。

ケンブリッジを除いて。

今回は「育成プロジェクト」というテーマで、プロジェクトを通じていかにクライアントの参画メンバーを成長させるかを語った本であるが、個人的にかなり刺激を受けた。自分が個人的にやっていることも多くあるが、なるほど、こうやるんだな、と思ったことも多い。

しばらくしたら再読したい。