角野栄子『新装版 魔女の宅急便 (4)キキの恋』

新装版 魔女の宅急便 (4)キキの恋 (角川文庫)

新装版 魔女の宅急便 (4)キキの恋 (角川文庫)

泣く子も黙るジブリ映画の原作小説、全6巻のうちの第4巻。

2巻以降は既に映画版の「その後」を描いており、第4巻はキキの年齢も既に17歳。映画版でも出て来るトンボが遠くの学校に通うことになる。しかも夏休みには帰ってくるはずだったのに「山にこもる」とか言って帰ってこない。キキは寂しさやら何やらで暗い気持ちに支配されるようになる……というプロローグ。

この魔女の宅急便という児童小説の魅力は、少年少女の未知なるものへの憧れだとか、易しい文体だとか、それでいて大人の辛い現実も少しだけ覗かせてくれるとか、探せば色々とある。だがわたしが本書を読んでいて思ったのは、キキの姿は、わたしにとって自分を写す鏡のような気が強くする、という点だ。

わたしは小説を読んだり映画を観たりする歳、感情移入はする。しかしそれは置かれた状況下であったりストーリーに対してであって、正確には世界観への「没頭」や「没入」と呼ばれるものであろう。主人公そのものの気持ちになって一喜一憂するわけではないと思う。しかし本作では、それが起こってしまう。年齢も違う、性別も違う、わたしはごく普通の人間でキキは魔女だ。わたしとキキの間には、表面的には違うところしかないはずなのに、深いところで何かが共振し、嫉妬だのイライラだの不安だのといったキキの感情がまるで自分の感情のように迫り来るのだ。そして自分の過去や現在の行動が思い起こされ、チクチクと心が痛むのである。これが、児童文学ゆえなのか、角野栄子の力量なのか、たまたま昔から『魔女の宅急便』を観てきて感情移入しやすいのか、はたまた違う理由があるのかはわからない。しかしわたしにとって、とにかくそうなのだ。

素晴らしい読み物である。

余談

Kindleでは全6冊合本版もある。

新装版 魔女の宅急便 全6冊合本版 (角川文庫)

新装版 魔女の宅急便 全6冊合本版 (角川文庫)