米澤穂信『Iの悲劇』

Iの悲劇

Iの悲劇

主人公は地方公務員。出世が望みの公務員らしい公務員だが、それでも仕事は仕事としてきちんとやり遂げたいという思いはある。自分ではそこそこ仕事ができると思っているので、次は花形の土木課か総務課になればと思っていたところ、新設の「甦り課」への配属となってしまった。何を甦らせるのか? 村だ。南はかま市の簑石地区は現在、限界集落を飛び越えて無人になってしまった。甦り課は、Iターン希望者を募って移住を受け入れ、過疎地の復興のモデルケースを作り上げることがミッションである。しかし死んだ村を生き返らせるのはそう簡単な話ではなく、移住者のトラブルが日々発生する……と、こんな感じのアウトラインだろうか。

そう、『Iの悲劇』とは「Iターンの悲劇」のことである。

とはいえ、米澤穂信なので、ただの仕事小説ではない。「よっしゃ殺人が起きたので事件でも解決しますかな」といったタイプのミステリではなく、読んでいく中で「そういったことだったのね」と驚かせるタイプのミステリを得意とする。それを日常の謎と呼んでも良いし、ある種の叙述トリックと呼んでも良いが、とにかく読者に衝撃を与える構成力は見事なものだと思う。

本作もそうだ。

移住者のトラブルとそれに振り回される小役人の主人公、愚痴のひとつもこぼしたくなるよね……という構図だと、まあテレビドラマとしては面白いかもしれないが、米澤穂信のミステリとしては不適格だろう。そう思っていたが、少なくともそうではない。少なくともわたしは2回、衝撃を受けた。

実は本書で、米澤穂信の小説は(おそらく)全て読んだのだが、これもなかなか面白いし、何より読みやすい。