井上雄彦『リアル』13巻

REAL 13 (ヤングジャンプコミックス)

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『SLAM DUNK』『BUZZER BEATER』『バガボンド』などで知られる漫画家による、車椅子バスケや車椅子バスケに関わる人々を描いた漫画……はずだったのだが、この13巻はプロレスの1試合に丸々費やされている。そして、この試合を経て、物語はまた大きく動き始めることになるようだ。それを牽引するのは高橋久信である。
久信は長年、他人との間に壁を作り、他人をランク付け・レッテル張りして、虚勢と孤独の中で生きてきた。車椅子生活になることで、その虚勢と孤独は一層深いものになる。それがどれほどやっかいであるかは、本作で長年かけて描写されてきた。久信は正直に言って好青年とは呼べまい。しかし一般人たる我々と地続きの人間である。
そんな久信の人間性が、たった一試合のプロレスで、変わる。
本当の人間性が露わになる、と言っても良いかもしれない。
特にクライマックスでの「瓶」のメタファーによる描写は秀逸である。久信が誰にも気づかれないよう注意深く瓶に入れて蓋をし、さらに箱に入れて、その箱の存在すら悟られないようにしてきた本当の自分。久信は他人と同じように自分自身にもレッテルを張り、「Aランク」として振る舞うことを自分に課す。久信は外見だけは成長したが、内面はまだどうしようもなく子供で、どうしようもなくバスケが大好きな、そして傷つきやすい、繊細な人間である。
様々な人が、時に強引に、時に執拗に、その瓶の中身を手に入れようとする。しかし久信はそれを許さない。実は久信も、その瓶や箱の中から出たがっている。本当の自分は閉じ込められた瓶の中から、精一杯そのガラスを叩く。けれど、もはや自分だけでその瓶や箱の中から抜け出すことは叶わない。そんな中、白鳥が、瓶の蓋をそっと開けるのである。「力任せに」ではなく、「そっと」というのが良いね……。
何事にもクールに、冷めて振る舞っていた久信は、スコーピオン白鳥によって、プロレスのチカラによって、子供のように泣きじゃくり、下半身不随のままプロレスを続けるスコーピオン白鳥を応援する。「負けるな」と。
私も久信と同様、スコーピオン白鳥の試合には、ただただ感動し、涙した。もう何十回も読み、何十回と挑戦したのだが、未だにこの感動を上手く文章化することはできそうにない。13巻には、「勝ち負け」や「強さ」だけでは括れないプロレスの奥深さが描かれていると思う。そして『リアル』史上最高のクライマックスが13巻だと思う。しかし既に14巻が発売されたこともあり、いいかげんに現時点での感想を書いておこうと思ったのだが、それがこのエントリーである。
さて、このエントリーを書くまで封印してきた14巻を今から読もうか……!