『青天の霹靂』

青天の霹靂 通常版 Blu-ray

青天の霹靂 通常版 Blu-ray

  • 出版社/メーカー: 東宝
  • 発売日: 2014/12/10
  • メディア: Blu-ray
タレント・お笑い芸人としてだけでなく小説家としても注目されている劇団ひとりの長編小説、その映画版である。劇団ひとりは本作で監督・脚本・助演を務めている。

主人公はマジシャンだが、喋りがイマイチで全く売れることができず、39歳になった今も浅草の場末のマジックバーの店員として働いている。先に売れた後輩からは馬鹿にされ、スーパーでは店員の目を盗みながら割引シールを自分の欲しいものに付け替える日々。ある日、自宅に帰ると上階の水道管が破裂して古い木造アパートが水浸しで、自室のトランプや手品道具も使い物にならなくなっている。マジシャン的には大変な惨状だが、怒る気力も片付ける気力も出ないまま公園のベンチでホットドッグを食べようとした時、一本の電話がかかってくる。警察から高校卒業以来ずっと連絡を取っていなかった父親が死んだとの知らせである。遺骨を受け取り、父親が住んでいた自宅に向かうと、そこは線路の高架下にある川辺の段ボール小屋……どうやら父親はホームレスになっていたようだ。目についた缶箱を開けると、赤ん坊の頃の自分と父親の写真が入っていた。

「何でこんなもん大切に持ってんだよ……」と呟いた後、ここまでの15分、能面のような顔か愛想笑いのいずれかであった主人公の表情が初めて歪み、感情が爆発する。

「親父、生きるって難しいなあ……。毎日みじめでよ……。俺、何のために生きてんだかよくわかんなくなってきた……。もうどうしたらいいかわかんない……」

この時点でわたしは涙をこらえることができず、主人公とともに号泣してしまった。

わたしが何故泣いてしまったか? それは、この「生きるって難しい」という感覚を、程度の問題はあれど、わたしを含めた多くの人間が持っているからではないだろうか。本作の主人公のようなわかりやすい挫折ではなくとも、ごく普通に見える人が裏では挫折や停滞・孤独・深い苦しみの最中にいる、ということはよくあることだと思う。主人公を演じる大泉洋の言葉を聞いて、わたしも思わず過去と現在の辛くみじめな思いが噴き上がってきた。単なる感情移入というよりは、主人公の感情とわたしの感情がオーバーラップしたような感覚である。元来わたしは小説や映画・漫画でよく泣く方なのだが、それにしても冒頭15分のイントロ部分でここまで感情を揺さぶるのは凄い。

さて、ここで本作のタイトルである「青天の霹靂」とも言える現象が発生する。雲一つない青空から急に稲妻が放たれ、主人公を直撃するのである。気がつくと主人公は40年前にタイムスリップしていた。色々あった結果、無一文なのでとりあえずマジックのできる雷門前の寄席まで行って、主人公にとっては時代遅れのマジックを披露すると、これが40年前からすると新しい。そしてたまたま、若い頃の主人公の父親とコンビを組んでマジックを披露することになる……と、こういう筋書きでこの後のドラマが展開するのだが、これ以上はネタバレになるからこの辺にしておこう。

シンプルな筋書きなのだが、大泉洋・劇団ひとり・柴咲コウの3名がいずれも演技が上手く、柴咲コウ可愛いなあと思う間もなく、とにかく話に入り込んでしまう。

面白い!