全卓樹『銀河の片隅で科学夜話』

いわゆる科学エッセイと呼ばれるやーつ。

様々なところで目にする機会があったので手にとって見たが、何を軸に楽しめば良いのか、何となくピンと来なかった。

科学エッセイといっても、知的好奇心を刺激するような感じでもないんだよな。かといって文学的かと言われるとそれもちょっと違う。

日を置いて読み返してみると、また感想も変わってくるかもしれない。

宮居雅宣『決済サービスとキャッシュレス社会の本質』

決済サービスとキャッシュレス社会の本質

決済サービスとキャッシュレス社会の本質

この手の領域の第一人者らしい。

よくまとまっていて勉強しやすいとは思った。

でも個人的には『トークンエコノミービジネスの教科書』の方が、わたしの興味に近く、面白かった。

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伊藤淳史『入門者のための短期社債発行実務:発行手続と費用の全てを』

先日読んだ『入門者のための社債発行実務:債券発行の流れ&関係者&費用』がめちゃくちゃ参考になったので、同じ著者の本を購入。

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こっちもよくまとまっておりわかりやすいのだが、まずわたし自身が今、短期社債の手続きを差し迫って知る必要がなかったので、『入門者のための社債発行実務:債券発行の流れ&関係者&費用』ほど真面目には読まず、なるほどね〜と通読した感じ。

まあ目的が超ピンポイントなので、興味のない人が手に取ることは原則ないだろう。

伊藤淳史『入門者のための社債発行実務:債券発行の流れ&関係者&費用』

Kindle unlimitedで読める個人出版のような位置づけの本。著者は事業会社の財務部で資金調達を担当してきており、これまで日本国内外で金融機関借入や社債発行などの実務に携わってきたそうだ。その中で苦労して学んできたことを、事業会社側の資金調達担当者(特に不慣れな新任の方)に向けて書き留めた本だという。

まず目次を引用する(「はじめに」と「あとがき」は除く)。この目次だけで勉強になるものがあるね。

  1. 債券の基礎知識
    1. 債券とは
    2. 債券発行の効果
    3. Debt調達手法の比較
    4. 債券の種類
  2. 債券発行までの流れ
    1. 事前準備事項
    2. 起債フロー
  3. 債券発行の関係者
    1. 関係者とその役割
  4. 社債発行に係る費用
    1. 初期費用
    2. 期中費用
  5. 必要書類
    1. 発行登録書
    2. 発行登録追補書類
    3. 社債要項
    4. 買取引取契約、証明書
    5. 業務契約書
    6. コンフォートレター
  6. 開示制度
    1. 金融商品取引法上の開示制度
    2. 有価証券届出書と発行登録制度
  7. 引受審査
    1. 引受審査の概要
    2. 引受審査の項目
    3. 引受審査の分類
    4. 引受審査のスケジュール
  8. コンフォートレター
    1. コンフォートレターの概要
    2. コンフォートレター作成・受領のスケジュール

肝心の内容だが、とても良い。この手の本は、Webでも読める水準の雰囲気だけを掴む入門書か、法律バリバリの超専門書に大別されるが、本書は説明が端的かつ具体的で、非常に勉強になった。ほぼ感銘を受けたと言って良い。以下はわたしの備忘メモだが、書籍は当然この10倍以上のノウハウがある。なお、読んだときの感覚を鮮明に繋ぎ止めるために本書の表現を極力活用しているが、厳密な引用ではない。

1. 債券の基礎知識

  • 社債は100億円以上での起債が一般的で、固定金利・満期一括返済である。
  • 債券を発行すると「この企業はこのプライスで発行できる」というアナウンスメントになりマーケットでのプレゼンス向上に寄与する。
  • 銀行や保険会社などの融資金融機関は、融資を足がかりに様々なクロスセル(付随取引)の機械提供を要求するし、株式投資家は議決権の行使を通じて経営に関与する。一方、債券自体の採算性・収益性を判断基準として投資活動を行う債券の投資家はプレーンな存在。
  • 債券、相対借入以外の代表的なDebt調達手法であるシンジケートローンは、借入人が複数の金融機関から一つの契約で当時に借入を行う形態である。借入可能額が大きくなる、単一契約であるため金額対比での事務負担が軽減されるメリットがある一方、ローン組成を行うアレンジャーへの手数料が発生する、相対借入に比べるとプライスが高くなる等、追加コストがかかる。
  • 起債を行う際に発行体が準備しておく事柄は、格付の取得、発行登録、取締役会決議、一般債振替制度への登録等がある。

2. 債券発行までの流れ

この章はめちゃくちゃ参考になった。わたしのメモでは割愛したが、スケジュール感なども詳細に書かれている。数日で発行できるようなお手軽なものではないし、プライシングは主幹事証券会社のテクニックと言うか、いわば職人芸みたいな要素もあるのではないかと理解した。

  1. Debt IR:投資家とのコミュニケーションを図るための1on1ミーティング(個別投資家訪問)やセールスミーティング(証券会社セールス向け説明会)を実施する。
  2. マンデートアナウンス:投資家サイドに予め投資枠を確保させることと十分な検討時間(クレジット分析の時間)を与えることを目的に、ベンダー情報を通じて主幹事証券会社を指名した旨をアナウンスする。
  3. ソフトヒアリング:主幹事証券会社が、発行体名・年限・発行予定額・条件決定予定日・払込予定日・ベンチマーク等を投資家に提示して反応を確認する。その上で、プライス(スプレッド)のイメージを投資家からヒアリング、集約してプレ・マーケティング時に提示するスプレッド水準を検討する。
  4. 主幹事プレ・マーケティング:主幹事証券会社が、投資家に具体的なスプレッドレンジを提示して反応を確認する。各投資家の需要総額を積み上げて、発行体が希望する発行額を達成するためのプライス水準を探っていく。
  5. シ団プレ・マーケティング:主幹事証券会社だけでなくシ団メンバーもいる場合、シ団独自の投資家層の需要を取り込むことを目的に、シ団メンバーも投資家に具体的なスプレッドレンジを提示して反応を確認していく。
  6. ローンチ・プライシング:ローンチ当日、主幹事証券会社は寄付(午前9時前)のマーケット状況から、条件決定を行うに際して問題がないことを確認する。もしマーケットでイレギュラーなことが発生していれば、ローンチ日を翌日にずらす等の措置を取る。その上で、主幹事証券会社から発行体に「プライシングを行って良いか」の最終確認を取り、通常午前9時半頃にプライシングを行う。
  7. 払込・発行

3. 債券発行の関係者

  • 発行体(本書は社債を念頭に置いているため、一般の事業会社を指す)
  • 証券会社(規模に応じて主幹事証券会社に加え、幹事証券会社(平幹事証券会社)、シ団証券会社が置かれる)
  • 銀行(発行される社債の種類に応じて財務代理人、社債管理者のいずれかの役割を担う)
  • 投資家
  • 格付機関
  • 監査法人(開示書類に記載される財務諸表等を確認し、起債の必要要件であるコンフォートレターを作成し、発行体と主幹事証券会社に送付する)
  • 所管財務局
  • 証券保管振替機構

4. 社債発行に係る費用

発行体から見た費用の細目。メモは割愛するが、費用の水準感や、Webで見られる場合はその確認方法まで載っていてもう最高。

  • 初期費用
    • 引受手数料(引受証券会社に支払う手数料)
    • 財務代理人手数料(財務代理人を務める銀行、信託銀行に支払う事務代行の手数料)
    • 新規記録手数料(証券保管振替機構に支払う手数料)
    • 格付費用(格付機関に支払う手数料/ベースとなる発行体格付と、個別社債毎の個別債務格付の2種類が必要)
    • 監査人の書類作成費用(監査人に支払うコンフォートレターの作成費用)
    • 目論見書作成費用(印刷会社に支払う目論見書の印刷費用、ポスターやリーフレットの作成費用、新聞広告費用等)
  • 期中費用
    • 支払利息(投資家に支払う利息)
    • 利払手数料(口座管理機関に支払う、利払いに係る手数料)
    • 社債管理手数料(社債管理者に支払う手数料/財務代理人を使用している場合は未発生)
    • 元金支払手数料(口座管理機関に支払う、元金支払いに係る手数料)

5. 必要書類

書類作成過程、関係当事者、提出タイミング等かなり精緻に解説してくれている。わたしは一旦、書類名とその概要だけをメモ。

  • 発行登録書(日本国内で有価証券の募集・売出を行う際の金融商品取引法上の開示書類の一種/本来は有価証券届出書の提出が必要だが、一定の要件を満たすと発行登録書の提出が認められ、機動的な起債や事務負担の軽減と言ったメリットを享受できる)
  • 発行登録追補書類(発行登録書の提出により登録された有価証券の募集・売出を実際に行う際に、提出が義務付けられている書類の一種)
  • 社債要項(発行される社債の具体的内容を記載した書類)
  • 買取引受契約、証明書(発行される社債を投資家に広く販売するにあたって引受証券会社が一旦当該社債の全額を買い取る内容の契約で、関係者の義務・権利を記載)
  • 業務契約書(監査人・発行体・主幹事証券会社間で責任の所在を明らかにし、コンフォートレターの作成手続きを確定するために締結する契約書)
  • コンフォートレター(監査人が発行体の開示書類に記載された財務情報・その後の変動につき調査した結果を、発行体と主幹事証券会社に報告するために作成するレター)

6. 開示制度

発行に際しての書類は5章で解説してくれているが、開示に係る書類は本章。疲れてきたのとわたしが勉強したい情報から少し外れているのでメモは割愛。

7. 引受審査

主幹事証券会社が行う引受審査の概要、項目、分類、スケジュールについて解説。こちらもメモは割愛。

8. コンフォートレター

コンフォートレターの概要、作成・受領のスケジュールについて解説。概要は既にメモしてきたので、これ以上のメモは割愛。

最後に、余談

わたしがこれまで十分に理解できておらず(注:資金調達の素人です)、本書で大きく学んだのは以下6点。当然これ以外にも大変な学びがあったことは繰り返すまでもない。

  1. 発行プロセスや関係者だけでなく、費用水準まで具体的なので、業務理解に手触り感が出てきた。
  2. プライシングの位置づけ。プライスは発行体が決めるものであるという理解は一義的には合っているのだが、プレイヤーが多くない社債においては、プライスを決めるのは投資家の需要を慎重に判断する必要があり、発行体と言うよりもむしろ証券会社が慎重にIRして戦略を立てた上で、発行体と連携するという印象を持った。
  3. 格付機関の重要性。ここまでプライシングに気を使っているところを見ると、未格付の企業の社債発行は相当ハードルが高いね。
  4. 財務代理人と社債管理者の位置づけ。存在は知っていたが、何となく読み飛ばしていた。
  5. コンフォートレターの存在。これも正直よく知らなかった。
  6. 所管財務局、証券保管振替機構(ほふり)といった当局の位置づけ。

良い本だった。著者は『入門者のための短期社債発行実務:発行手続と費用の全てを』という本も書いており、こちらも読んでみることにしたい。

比嘉一雄『硬い体が驚くほど気持ち良く伸びる自重ストレッチ』

昨日読んだ、なぁさん『なぁさんの1分極伸びストレッチ』と同じぐらい気に入った。

これまでのストレッチ本で紹介されていたストレッチは、そもそもストレッチの本を読んで試してもピンと来ないエクササイズが結構多かったりする。それは、わたしのカラダの柔軟性が低かったり、肥満体型なので脂肪が邪魔したり、体重を支えるほどの筋力がなかったりして、その姿勢を上手く取れなかったり、取り続けるのに余分なチカラが入って脱力できなかったりすることが多いのである。これまでは「何となくピンと来ないなぁ」と思っていただけだったが、なるほど、本書を読むと、自分がなぜこれまで読んだ多くのストレッチ本がしっくり来なかったのかがよくわかった。

本書は、自重ストレッチがテーマだが、自重ストレッチはストレッチを効かせるために気をつけねばならないことが最小限である。単にその姿勢をとれば、脱力しやすい状態が生まれ、いざ脱力すると自重のチカラでしっかりストレッチすることができるようなエクササイズが紹介されている。もちろん全部が全部、今のわたしに必要なものではないが、この発想は目からウロコである。

例えば、よくある開脚して体を前に倒すストレッチは、下半身(特に内もも)の筋肉を伸ばすために行っているものだと思うが、本書が紹介してくれた内もものストレッチは100倍イケてる。正直感動を覚えた。他にも、しっかり試すと役立ちそうなものが多い。

ぜひ試してみようと思う。

なぁさん『なぁさんの1分極伸びストレッチ』

生活の質が感動的に上がる なぁさんの1分極伸びストレッチ

生活の質が感動的に上がる なぁさんの1分極伸びストレッチ

  • 作者:なぁさん
  • 発売日: 2019/10/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
これまでに読んだストレッチの本の中で今のところ最も気に入った。

  1. ストレッチの数が厳選されており、消化不良にならない
  2. 個々のストレッチを試した結果「伸びてるなー」という納得感があるものが多い
  3. QRコードを読み込むことで動画を視聴可能
  4. 本の作りが特殊で、簡単に180度開くことができ、勝手に本が閉じない

首や顎(咬筋や顎関節症対策)のストレッチは、感動的に効いたし、最初の背中のストレッチから「ほー、なるほど」と納得できた。

この手のものは、やはりSNSで多数の人々のフィードバックを受けて洗練化している人の方法論は強いね。

森本貴義+阿部勝彦『新しいストレッチの教科書  【最新】理論とエクササイズ』

以前、森本貴義+近藤拓人『新しい呼吸の教科書  【最新】理論とエクササイズ』という本を読んでなかなか目からウロコだったので、本書も買ってみた次第。

大切なのは「柔軟な身体」ではなく「自由な身体」であり、そのためには単にカラダが柔らかければ良いという話ではなく、関節の可動域を上げることが重要である、という指摘はなるほどと思った。

ただ、わたし自身アスリートではないので、どの関節の可動域をどの程度まで上げたら自分の生活が快適になるのかがあまりイメージできなかったのと、関節の可動域を上げるエクササイズは、いわゆる首や背中や肩甲骨をストレッチするのに比べて、直接的な効果を感じづらかった。

まずは『新しい呼吸の教科書』の方から改めてやるかな。

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村山巧『自分史上最高の柔軟性が手に入るストレッチ』

自分史上最高の柔軟性が手に入るストレッチ

自分史上最高の柔軟性が手に入るストレッチ

  • 作者:村山巧
  • 発売日: 2019/07/18
  • メディア: 単行本
しばらくやってみたが、柔軟性を手に入れることができず、あまりピンと来なかった。元々体の柔らかい方や、そこそこ運動をしてきた方に向けた本という印象を持った。

今はストレッチ3.0の時代とのことで、脳科学アプローチと筋膜アプローチという2つのアプローチのストレッチが紹介されているのだが、わたしにとっては情報量過多だ。ストレッチについては方法論よりもカラダが気持ちよく伸びることや、ストレッチを通してカラダの不調が解決することの方が、わたしにとっては重要だからだ。

シマモリマスオ『Excel Power Query入門』

Excel Power Query入門

Excel Power Query入門

Power QueryとはExcelで追加実装されたアドインで、この機能を使えばAccessのようなクエリ機能が使える。(かなり乱暴な説明だが)

ならAccessを使えよという話なんだが、個人的にはファイルがExcelの中で完結するのは楽で便利である。Excelを使ったことのないビジネスパーソンはまずいないと思うが、Accessを使ったことのないビジネスパーソンは結構存在するので、とりあえずロジックを組み込んだ数値ファイルを連携するという際に、AccessよりもExcelの方がハードルが低い。

本書は、Power Query機能の立ち上げから編集まで、基本的な操作がどこからやれるのか、キャプチャを張りながら説明してくれている。

Kindle Unlimited対象なのでわたしは無料で読めたのだが、まあPower Query機能を実際に使いながらでも30分かからず読めるので、最初の1冊には良いと思う。

柴雅仁『10秒で絶好調になる最強のストレッチ図鑑』

10秒で絶好調になる 最強のストレッチ図鑑

10秒で絶好調になる 最強のストレッチ図鑑

  • 作者:柴雅仁
  • 発売日: 2019/10/19
  • メディア: 単行本
ストレッチとマッサージの厳密な定義はわからないが、ストレッチ本というよりも、マッサージ本って感じ。すねの筋肉をほぐすのとか、脇の筋肉をつまんでほぐすのは、個人的には凄く効いたので良かったけど、やはりストレッチではなくマッサージのような感じ。

あと、これは他の本にも言えることだが、ストレッチの種類が多すぎてとてもやりきれない。厳選された内容が読みたい。

高榮郁『トークンエコノミービジネスの教科書』

トークンエコノミービジネスの教科書

トークンエコノミービジネスの教科書

  • 作者:高 榮郁
  • 発売日: 2019/03/20
  • メディア: Kindle版

概要

トークンというのは現在かなり幅広い意味で使われているが、本書での意味を簡単に書くと、法定通貨ではない「代替通貨(代用貨幣)」のことを指す。この概念を、現在話題になっているブロックチェーン技術と組み合わせ、提供者が独自に開発した暗号資産(仮想通貨)によって様々なサービスを提供しようという試みが、本書のタイトルにもなっている「トークンエコノミービジネス」である。

……端的に説明し過ぎた。もう少し噛み砕いて書く。

1) ポイント≒広義のトークン

わたしは本書を読んで、トークンエコノミービジネスの本質は「トークン」そのものを理解することなのだと思った。そしてそれは難しくない。

具体例で説明するが、Amazonには1ポイント=1円の価値を持つ「Amazonポイント」がある。楽天にも1ポイント=1円の価値を持つ「楽天ポイント」がある。使い方は言うまでもないが、Amazonや楽天のサイトで買い物をすると、それに応じてポイントが付与され、次回以降のAmazonや楽天のサイトでの買い物で使えるというものだ。繰り返す、Amazonや楽天の中でだけ使える。*1

この種のポイントキャッシュバックが日本で浸透している最大の理由は、こうしたポイントは利用用途や利用先を限定することができるからである。Amazonが、10,000円の商品を買ってくれた利用者に現金で100円をキャッシュバックしても、当たり前だがその100円を自分たちのサービスで使ってくれるとは限らない。そして他のサービスで100円を使われると、サービス提供者にとっては単なる利益減少に過ぎない。一方、100 Amazonポイントで還元すると、その100ポイントはAmazonのサービスの中でしか使えない。ポイントで還元しても利益減少になるだろうと思うかもしれないが、この仕組みは、自分たちのサービスを再度利用してもらう極めて有効なインセンティブとして作用する。著者の言葉を借りてもう少し格好良く表現すると、これは「閉じた経済圏」を作ることができるというメリットになる。ベタに書くと、損して得取れである。

もうひとつ、LINEにも「LINEポイント」がある。LINEポイントは本書では(多分)サービス名だけ挙がっていて詳細は書かれていなかったが、わたしなりに考えるとLINEポイントとAmazonポイントはビジネスモデルが違う。LINEポイントは商品の購入に応じて付与されるものではなく、LINEスタンプなどの購入のために事前に自らの意思でチャージするプリチャージ型である。プリチャージ型の場合、利用者としては、たくさんのポイントをプリチャージしようとすると大抵ボーナスポイントがつくため、お得に買い物ができるというメリットがある。一方、提供側としては、先ほど書いた「閉じた経済圏」の効果で利用者を繋ぎ止めることができるのに加え、商品やサービスを実際に提供する前に、先んじて対価である現金を受け取れるというメリットがある。利用者が1,000円分のLINEポイントを購入したとして、全てのポイントを一瞬で使うとは限らない。わたしはこの手のプリチャージ型の場合、毎回チャージするのが面倒なのと、ボーナスポイントがつくとお得感があるので、大抵数回分のポイントを予め購入しておく。*2 *3

著者の説明を読んで「なるほど」と思ったのだが、要するに、これらのポイント=広義のトークンと考えれば良いのである。

2) 「閉じた経済圏」を作り出す3つの条件

本書では、トークンによる「閉じた経済圏」を作り出すための条件を3つ定義している。

  1. 価値のある独自トークンが存在する
  2. 特定の行動に対してインセンティブを付与する
  3. トークンの価値を高める施策がある

1は良いとして、ポイントは2と3であろう。これまでポイント≒広義のトークンと書いたが、2は別にショッピングサイトでの商品購入の対価として付与されるだけではない。本書では、政治コミュニティの運営にトークンが使われており、良いコメントに対して他者から良いねのような形でトークンを送り合う事例が紹介されていた。すなわち、ショッピングサイトでは商品購入のインセンティブを高めるためにポイント≒トークンが使われているのだが、政治コミュニティでは、「良い発言」や「質の高い議論」のインセンティブを高めるためにトークンが使われている。そして3は、トークンと現金の変換比率を変動性にすると共にトークンの発行量を制限して希少性を高めたり、ビジネスの利益に連動した株主配当のような形で保有トークンに一定比率で更にトークンが配布されたりする。ビットコインのようなほぼ投機目的のトークンもあるが、コミュニティの運営強化に使われているトークンが多い。

つまり、最初の理解としては単にポイント≒広義のトークンで良いが、現実のトークンエコノミービジネスはもっと多様で複雑なのだ。

3) ポイント×ブロックチェーン

ただ、このポイントサービスを開発・運営していくのは、高い技術力や費用が必要である。セキュリティが脆弱だと、利用者に損害を与えるリスクがあると同時に、サービス提供側にハッキングされて大変な損失を被るリスクもある。一方、ブロックチェーンは技術的に改竄が難しく、また一度トークンを配布すればその後のトークンのやり取りはP2P(ピアツーピア)行われるためサーバ等の運営コストもかからない。堅牢なサービスを安価に運営できる。

要するにポイント×ブロックチェーンが、より精緻なトークンの理解である。

最後に

上ではトークンの考え方にほぼ絞って書いたが、本書はもっと事例がふんだんに書かれている。面白いのでおすすめ。

*1:厳密にはポイントサービス間での「ポイント変換」という話もあることを書きながら思い出したが、本書の主題ではないためここでは割愛する。

*2:本書では「1ポイント=1円で購入することができる『LINEポイント』」と書かれていたが、今、コインチャージしようとすると50ポイント=120円、100ポイント=250円だったので、LINEポイントは1ポイント=1円ではない。

*3:厳密にはAmazonポイントもプリチャージできるのだが、Amazonの商品は現金で購入できるため、わざわざポイントをプリチャージしてAmazonの商品を買う人は少ないような気がする。一方、LINEでLINEスタンプを買うには必ずLINEポイントを使わなければならない。

宍戸徹『QUERY関数:Googleスプレッドシート最強のデータベース関数を使いこなそう!』

表計算ソフトといえば、ビジネスシーンでは長年Excelの独壇場なのだが、たまにGoogleスプレッドシートを使うケースもある。Googleスプレッドシートには同時編集機能があるのと、Excelにはない一部の関数を使いたいことがあるからである。

本来は(書名にあるQUERY関数ではなく)IMPORTRANGE関数を使おうとした結果たまたま本書に辿り着いたのだが、QUERY関数もなかなか便利ではあり、色々と組み込ませてもらった。ただ正直、QUERY関数を使うぐらいなら、Accessを使うとか、Excel 2016より実装されたPower Queryの機能を使う方が良い気もする。SQLが使える人はそれでも良いだろう。

なおIMPORTRANGE関数はExcelの関数では実現できない貴重な関数だ! と思っていたが、これも(関数ではないが)ExcelのPower Queryで簡単に実装できそうだ。

約10年前にGoogleスプレッドシートが登場したときは本当に凄いと思ったが、Googleスプレッドシートが一番凄かったのはその登場時で、この5〜10年を振り返ると、後進のGoogleスプレッドシートよりもExcelの方が進化している気がする。Excel 2019の新しい関数が、これまためちゃくちゃ便利そうなんだよね。

三谷宏治『新しい経営学』

新しい経営学

新しい経営学

  • 作者:三谷宏治
  • 発売日: 2019/09/27
  • メディア: Kindle版
経営学は、以下の6つの分野に分かれる。著者の説明を引用する。

  1. 経営戦略|企業としてどういう存在になりたいのか(ビジョン)、どの戦場(ドメイン)で戦うのかを定め、そこで何をウリにするのか(基本戦略)や敵とどう戦うのか(競合戦略)、どう取り込むのか(M&A)を立案すること。また企業が複数の事業を持つ場合には、事業ごとにそれらを行い、全体として統合(全社配分)・資源配分すること。
  2. マーケティング|各々の事業で市場や顧客・競合を分析することで、誰に対してどんな価値を売り込むのか(STP)、それをどうやったら実現できるのかを4つの対顧客活動(4P:商品、価格、販促、販路)を組み合わせて立案すること。
  3. アカウンティング|特定の期間中、その企業・事業が儲かったのか否か(損益)、資金繰り(キャッシュフロー)はどうなっているかを把握するための財務会計と、それらの状況・要因分析を行う管理会計がある。年度予算の立案・管理も含まれる。
  4. ファイナンス|株式や債券発行、銀行借入、自己資金など多岐にわたる資金調達方法を最適化し、かつ各事業に配分する。そのためにはさまざまな事業・投資価値評価(NPVやIRR)が必要となる。
  5. 人・組織論|企業とは結局、人の集まりでありそれらがどんな塊に分かれて、どんな役割を果たし、どんな責任権限を持つのか決めなくてはならない。それが組織論。そしてそこに集う人々を採用し、教育し、評価し、モチベイトし続けるのが人事(人間関係)論であり、そこにはリーダーシップ論なども含まれる。
  6. オペレーション|商品・サービスの提供のために必要な機器やプロセス、仕組みを立案すること。その範囲には調達、生産、物流、販売、サービスのすべてに渡る。

経営学の教科書は大抵、この分野ごとに書かれているわけだが、著者はこの分野ごとに満遍なく学ぶやり方は非効率で混乱の元だと語る。なぜなら、この6領域は実のところ「全社」レベルと「事業」レベルに分かれており、部長でも普段の仕事では事業レベルの知識しか必要としないからだ。

そこで著者は、まず初学者は事業レベルに特化して学ぶべきだと説く。かつ、分野別でなくビジネスモデルの4要素(目的)別に学ぶべきと説く。

  1. ターゲット(狙うべき相手) = 利用者、支払者など
  2. バリュー(ターゲットに提供する価値) = 基本価値とQCDS(企業向け)、ブランドや感覚などさまざま(消費者向け)
  3. ケイパビリティ(バリューをターゲットにどう提供するか) = リソース(経営資源)+オペレーション
  4. 収益モデル(対価とコストは見合っているか) = 売上−費用、他に替刃や広告モデルなど

この「目的別に学ぶ」というのが、わたしは凄く良いと思う。経営学に振り回されているのではなく、使いこなしている感じがする。

本書は、この4つの目的別に、事業レベルの知識を解説したものである。とても良い本。おすすめ。

菊澤研宗『成功する日本企業には「共通の本質」がある 「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学』

経営学のビッグ・アイディア(大胆で革新的な考え)は現在、次の4つなのだそうだ。

  1. 野中郁次郎教授が展開した「ナレッジ・マネジメント」研究(企業がどのようにして新しい知識(ナレッジ)を創造し、いかにして生み出した知識を効率的に活用する(マネジメントする)のかをテーマとする研究)
  2. クレイトン・クリステンセン教授が展開した「イノベーションのジレンマ」研究(優良企業が陥りやすい失敗をいかにして解決するかをテーマとする研究)
  3. ヘンリー・チェスブロー教授が展開した「オープン・イノベーション」研究(社外の知識を可能なかぎり利用し、オープンに研究開発を展開する方法をテーマとする研究)
  4. デイビッド・ティース教授が展開している「ダイナミック・ケイパビリティ」研究

このうちダイナミック・ケイパビリティのみ、まだ日本では十分に知られていないが、この考え方は成功した日本企業の本質を特徴づけているものであるそうだ。

本題に入ると、まず企業のケイパビリティ(能力)には2つの能力がある。

  1. オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)
  2. ダイナミック・ケイパビリティ(変化対応的な自己変革能力)

ややわかりづらいが、ビジネス環境が安定しているときに企業内の資産や資源を効率的に扱う企業の通常能力が「オーディナリー・ケイパビリティ」と呼ばれる。一方、ビジネス環境が不安定なときに「企業が環境の変化を感知し、そこに新ビジネスの機会を見出し、そして既存の知識、人財、資産(一般的資産)およびオーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)を再構成・再配置・再編成する能力」が「ダイナミック・ケイパビリティ」なのだそうだ。

詳細は本書を読んでもらうとして、ひとつ感心したのが、章立てや各章の説明が非常に筋肉質で、言い回しにも無駄なところがなく、とてもわかりやすいことだ。