藤本タツキ『チェンソーマン』6巻

チェンソーマン 6 (ジャンプコミックスDIGITAL)

チェンソーマン 6 (ジャンプコミックスDIGITAL)

色々な点で、ジャンプらしからぬ漫画。

第一に、引き伸ばしがない。超スピーディー。あれっコイツは主役級でしょみたいなのが雑魚キャラのように死ぬ。

第二に、絵柄が粗い。わたし的には大変好みだが、小中学生男子と腐女子がジャンプのメイン顧客層だとすると、マーケ的にはもう少し洗練された方が良いはずだが。

第三に、ややグロい表現もある。

第四に、6巻でも顕著だが、何とも言えないアイロニーがある。腐女子はともかく小中学生男子がなかなか理解できない感情かもしれないが、ここに攻めている。

いやもう最高。

最初に「ジャンプらしからぬ」と書いたが、定期的にこうした作品を世に生み出し、また許容するところは、ジャンプらしい奥深さと言えるかも。

細野不二彦『バディドッグ』1〜9巻

米国国防省から「逃亡」したスーパーな人工知能(AI)が、AIBOを思わせる懐かしの愛玩ロボット「バディドッグ」に入り込む。バディドッグの持ち主(相沢)は、妻&娘と暮らすごく平凡なサラリーマンなのだが、色々あった結果、相沢は周囲にバドの存在を隠しながら、一緒に暮らすことになる……という設定の日常系SF。

新刊の人気ランキングはAmazonで頻繁にチェックしているのだが、正直ちょっと前まで本作のことは知らなかった。

でもこれは面白い。

AIロボ(バド)を中心としたSFモノとしてだけでなく、家族モノとしても仕事モノとしても読める多面的な構成で、細野不二彦の作品としては、久々に超ヒットという感じ。

感想を書けていない漫画を100冊まとめて 第8弾(でも今回は60冊なんだけどね)

summary

以前100冊と言いながら1回140冊つけてたことがあるので、今回は諸々の都合を考えて60冊でオナシャス。誰に何の許可を求める話でもないが、差し引きして「1回あたり100冊」という全体の冊数のバランスは取れている。新しく手に取った作品20冊と、続き物の作品40冊。

池田邦彦『国境のエミーリャ』1巻

第二次世界大戦での敗戦後、西はアメリカ、東はソ連に分割統治されたという架空の日本。東京を真ん中で区切って国境に壁が作られているが(まんま東西ドイツ)、東は貧しくて、西に亡命しようとする人が後を立たない。主人公(若い女)は、食堂の給仕をしながら、亡命の手助けをしている……と、そういう架空の話。この手の作品、何かジャンル名あったはずだけど思い出せないな。ちなみにこの作者は、元々鉄道漫画ばかり描いてた人らしい。本作は鉄道漫画ではないが、鉄道はけっこう出てくる。リアリティがあって良し。

コトヤマ『よふかしのうた』2巻

なんとなーく不登校中の主人公(中2)は、夜中に外出したところ、美少女な吸血鬼と出会う。色々と仲良くなった結果、吸血鬼になりたいと頼み込むが、そう簡単に吸血鬼になれるわけではない。何と、吸血鬼に恋をしなければ吸血鬼にはなれない……とまあ、そんな感じのアウトライン。全体的に、同じ作者の『だがしかし』と同じくユルい雰囲気がある漫画だが、まあ吸血鬼だけあって、ところどころ緊張感のある感じもありやなしや。まあ確実に続きは気になる作品。

高松美咲『スキップとローファー』3巻

石川県の田舎から出てきた女子高生が都会の進学校で高校生活を送るという、小細工なしの青春漫画。すっごく面白いんだけど、3巻は、1巻や2巻と比べてちょっと試行錯誤しているような印象を受けた。読み手として、男の子との恋愛を軸に読めば良いのか、主人公の成長を軸に読めば良いのか、はたまた主人公の率直さで進学校に風穴開けていくみたいな話になるのか、何となく先が読めない感じなんだよな。そこが個人的に、もやーっとしたのかもしれない。

原田尚『サイクリーマン』3巻

おいおい、完結かよ……。面白かったのに。リーマンのファンライドというジャンルが限定的すぎて、人気が出なかったのかな。

その他……感想割愛!

KAKERU『天空の扉』1〜8巻、KAKERU『ふかふかダンジョン攻略記』1巻、細野不二彦『ヒメタク』全2巻、あきやま陽光+堀越耕平『僕のヒーローアカデミア チームアップミッション』1巻、アサイ『俺はナニを間違えた!?』、市川ヒロシ『どんぶり委員長』1〜2巻、肋骨凹介『宙に参る』1巻、つくみず『シメジ シミュレーション』1巻、丹念に発酵『このヒーラー、めんどくさい』1巻、笹生那実『薔薇はシュラバで生まれる 70年代少女漫画アシスタント奮闘記』

芥見下々『呪術廻戦』10巻、堀越耕平『僕のヒーローアカデミア』26巻、ヴァージニア二等兵『異世界居酒屋「のぶ」』10巻、石塚真一『BLUE GIANT SUPREME』10巻、森薫『乙嫁語り』11巻、漆原友紀『猫が西向きゃ』2巻、南勝久『ザ・ファブル』21巻、桑原太矩『空挺ドラゴンズ』8巻、鯨川リョウ『秘密のレプタイルズ』9巻、豊田悠『パパと親父のウチご飯』12巻、桜井のりお『ロロッロ!』6巻、灰原薬『応天の門』12巻、リムコロ『世話やきキツネの仙狐さん』6巻、山本崇一朗『からかい上手の高木さん』13巻、ジョージ朝倉『ダンス・ダンス・ダンスール』16巻、井龍一+伊藤翔太『親愛なる僕へ殺意をこめて』8巻、あfろ『ゆるキャン△』10巻、山本英夫『HIKARI-MAN』7巻、根田啓史『異世界行ったら、すでに妹が魔王として君臨していた話。』2巻、久米田康治『かくしごと』11巻、栗山ミヅキ『保安官エヴァンスの嘘』11巻、ナナシ『イジらないで、長瀞さん』7巻、シネクドキ『エルフさんは痩せられない。』6巻、小武『女主任・岸見栄子』5巻、泉朝樹『見える子ちゃん』3巻、めいびい『結婚指輪物語』8巻、めいびい『かつて神だった獣たちへ』9〜10巻、岡本倫『パラレルパラダイス』3〜9巻、小坂泰之『放課後ていぼう日誌』6巻、芝村裕吏+キムラダイスケ『マージナル・オペレーション』14巻

アサイ『木根さんの1人でキネマ』1〜7巻

ずっと愛読しているので感想とっくに書いてたと思っていたが、どうやらまだだったらしい。主人公は映画マニアのアラサーOLで、子供の頃はゾンビ映画やホラーなど子供が観ちゃイケない映画ばかり好きだったが、大人になるにつれて多少まともな映画マニアになったという経緯を持つ(けどジブリは観てない)。

けど映画マニアとしては相当こじらせており、ブログで映画批評してコメント欄と論争したり、同僚に映画好きを隠して云々したり、好きな映画について熱く語ったり、等々、映画マニアあるあるが山盛りで非常に楽しい。

大推薦!

谷川ニコ『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!』17巻

通称わたモテ。

友達や彼氏ができない様を自虐的に笑いにした喪女の青春譚……一言で書けばそうなのだが、本当にぼっちだった当初と比べ、今は主人公の飾らない(というか善人ではない)魅力に惹かれ、意外に友達が集まってきて、でもその恵まれた環境に主人公が気づかない、というメタな物語になっている。

元々はスクールカースト下位のぼっち生活を自虐的に描いた喪女の青春譚で、実際最初の10巻ぐらいまでは友達と呼べる人間は高校が別になった中学時代の友達だけだった。しかし高校2年の修学旅行をきっかけに主人公のアレな性格にハマるクラスメートが続出。気がつけば友達が常に周囲に集まっているというハッピーな状況で、主人公も何となく友情を良いものだと思い始めている……という読むと浄化されてしまう漫画。

主人公も今は高3で、高3の夏休みと言ったら受験勉強でしょうと、仲の良い友達に囲まれながら海辺で勉強したり、予備校の合宿に参加してみたりと、かなりの青春。

わたしも(ろくに勉強していなかったが)受験勉強自体はしていたはずなのに、その当時、これも青春の一つの姿だとはビタイチ感じていなかった。わたしも年を取ったということだろう。

泰三子『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』10〜11巻

ハコヅメ~交番女子の逆襲~(10) (モーニング KC)

ハコヅメ~交番女子の逆襲~(10) (モーニング KC)

  • 作者:泰 三子
  • 発売日: 2019/11/21
  • メディア: コミック
ハコヅメ~交番女子の逆襲~(11) (モーニング KC)

ハコヅメ~交番女子の逆襲~(11) (モーニング KC)

  • 作者:泰 三子
  • 発売日: 2020/01/23
  • メディア: コミック
ノンキャリアの現場警察官あるある漫画なのだが、10巻と11巻を読んで、正直驚いている。これが作者の初の漫画だとはね。

10巻と11巻はキモとなる巻である。以下、壮大なネタバレは当然しないけれども、その部分に一定程度踏み込んで書く。

安定しているからというだけで警察官になり、警察学校を卒業したばかりの女性主人公は、交番勤務となる。そして1巻の冒頭で、パワハラで刑事部のエースから交番勤務に異動となった元エースの女性の先輩とペアを組む――というプロローグだった。なお警察では原則ペアで仕事をし、先輩格をペア長、後輩格がペアっ子と呼ぶらしい。わたしは当初その設定に何の疑問も持たずに楽しんでいたわけだが、読み進めていくうちに、なんとなーく、気になっていた点もあった。例えば、ペア長はパワハラで異動となっているが、異動というわりにはパワハラ加害者と被害者が相変わらず同じ署にいて、よく一緒に仕事をしているなーと。しかも言葉遣いは多少粗いけどけっこう仲が良い。他にも、パワハラの割にはパワハラ講習を受けている様子がない点、そもそもパワハラめいた言動が一切ない点、などなど。

でもわたしは、作者は本作がデビュー作かつ初めて書いた漫画だということで、なるほど設定の作り込みがちょっとだけ甘かったのかな、でも気になるほどの話ではないしそもそも漫画として物凄く面白いから問題ないね、ぐらいに思っていた。

まさかこれが壮大な伏線・前フリだったとはね。

もうひとつ、本作のタイトルも凄い。そもそもハコヅメとは何だろう。読者はわかっている。第1話で、先輩指導員が交番のことをハコと呼んでおり、交番勤務(交番に詰めること)をハコヅメと呼ぶ、ということを。でも実はハコヅメという言葉はダブルミーニングだったことが10巻で明かされる。

つまり連載開始前から「ハコヅメ」は重要な言葉だったのだ。

ではもうひとつ、サブタイトルの「逆襲」とは何だろう?

わたしは元々、パワハラで異動になったペア長とペアっ子(主人公)が、労働基準法など無視された過酷な職場で、でも国民にとって必要な仕事を、交番あるあるを見せつけながら頑張ること――これを「逆襲」と呼んでいるのだと素朴に思っていた。しかし11巻まで読んだ読者は、この「逆襲」の意味もわかりかけている。これもダブルミーニングだったのかと。

そんなことを考えると、これまでにもビミョーに気になっていた点は他にも幾つかあった。例えば、物凄く下手な主人公の似顔絵センスに、どうもモジャモジャ(別の先輩)が異様に執着しているように見える点。例えば、主人公が交通整理中に車と軽く接触した際、鉄のメンタルを持つ筈のペア長が異様に取り乱していた点(当初は単に「後輩思いだな」ぐらいにしか思っていなかったが読み返すと少々大げさな気がしていた)。例えば、ペア長の髪がロングな点。女性とはいえ刑事は背中までかかるロングヘアには普通しないだろう。

他にもある。ペア長は自分を含めて4人の女性同期がいるのだが、同期の残り1人だけ登場しないなと。

この辺のピースが面白いようにハマってきて、コメディ部分や警察官あるあるは続けながらも、本作の真のテーマに肉薄していくのが10巻と11巻だ。

控えめに言っても最高すぎるだろ。

古橋秀之+別天荒人+堀越耕平『ヴィジランテ -僕のヒーローアカデミア ILLEGALS-』9巻

ちょっとしたサイドストーリーを挟み込み、最終章みたいなものに突入。色々なものが大変なスピードで動いているので、まさか10巻で完結か? 原作と違って世界観やストーリーに全く破綻がないし、ダレている感じもゼロなので、15巻ぐらいまでは続けてほしかったが。いや、間を取って12巻でも良い!(何の間だ)

まあ読者としては最終章を全力で楽しむしかないな。

極私的に「原作を超えた」と大大大推薦な漫画なので、最後まで最高のカタルシスで終えてほしい。

岩明均+太田モアレ『寄生獣リバーシ』3〜4巻

寄生獣リバーシ(3) (コミックDAYSコミックス)

寄生獣リバーシ(3) (コミックDAYSコミックス)

  • 作者:岩明均
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/09/11
  • メディア: Kindle版
寄生獣リバーシ(4) (コミックDAYSコミックス)

寄生獣リバーシ(4) (コミックDAYSコミックス)

  • 作者:岩明均
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/02/12
  • メディア: Kindle版
レジェンド級の傑作漫画『寄生獣』のスピンオフ。

わたしは『寄生獣』は「捨てゴマ」がほぼゼロだというぐらいよくできた作品だと思うし、本当に大好きなのだが、敢えて書くと、市長はもう少し深掘りできたかなと思っている。その意味で、市長の息子を主人公に据え、『寄生獣』と同じ時間軸で、一部の登場人物も重複させ、別の物語を走らせるという試みはスピンオフとして凄く面白いと思うし、期待もしている。

ただし、何だか1巻から主人公の「思わせぶりな表情や振る舞い」が多すぎて、正直に言うと凄く気に障る。作者はこれが格好良いと思ってるんだろうか。それとも他の意図が? 主人公をわざわざミステリアスにしようとする意図が全然わからないし、ぜんぜん良いと思えない。もし、主人公の数少ない友達が殺されたことで、自分が復讐心に燃えているということだけで、あの「思わせぶりな表情や振る舞い」だったとしたら、明らかに肩透かしだし、ミスリードだ。普通の高校生が、友達が怪物に殺されて復讐しようと思って操作居力すら拒むか、という根本的な違和感もある。

面白くなりそうなのに、どうも入り込みきれないというかね。

樫木祐人『ハクメイとミコチ』8巻

ハクメイとミコチ 8巻 (HARTA COMIX)

ハクメイとミコチ 8巻 (HARTA COMIX)

  • 作者:樫木 祐人
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/01/14
  • メディア: Kindle版
身長9センチほどの小人の女性(ハクメイとミコチ)のスローライフ漫画。

地味〜な漫画なのだが、いつの間にか公式ガイドブックが発売され、アニメ化もされ、けっこう人気が出てきている。

風景や食べ物の描写にこだわりがあって書き込みが凄いところは、ハルタ(雑誌名ね)らしいというか。

もう50回は読み返しているほど大好きな漫画なので、個人的には大推薦なのだが、とにかく作者は健康に気をつけて、描き続けてほしい。

安田剛助『じけんじゃけん!』7巻

広島弁+女子高生+ミステリという、極私的に「ここは楽園か?」ってぐらいサイコーな漫画だったんだが、完結してしまった。

個人的にはもう少し続けてほしかったが、作者がTwitterで「ミステリ好きな黒髪ぱっつんロング先輩と放課後を一緒にすごすだけのラブコメ漫画」と書いている通り、日常系漫画は終わらせどころが難しい。面白いうちに終わらせるのもひとつの判断なのだろう。

なお『姫ヶ崎櫻子は今日も不憫可愛い』という新連載が始まっており、Twitterで公開されていた数ページだけで既に面白そうだった。たとえるなら、『じけんじゃけん!』の準ヒロイン・ひまわりのような位置づけなのかな。

竹本真+猪乙くろ『前略 雲の上より』全7巻

物凄く面白い漫画を見つけてしまった……!

出世に憧れるごく普通の若手サラリーマンである主人公が飛行機マニア(空港マニア)の上司から半強制的に薫陶を受け、否応なく空港の魅力にどっぷり浸かっていく、という物語構造である。

わたしが特に気に入ったのが、課長が、飛行機マニア、その中でもおそらくレアだと思われる空港マニアであるという設定である……と書いたが、実際どうなんだろう。鉄道マニアは、乗り鉄(実際に乗るのが好きなタイプ)、撮り鉄(電車の写真を撮るのが好きなタイプ)、駅弁が好きなタイプ、時刻表が好きなタイプなどに分かれると聞いたことがあるが、飛行機の場合、どんなマニアが存在し、空港マニアがどの程度の勢力を占めているのかは正直よくわからない。本作では一応、空港写真マニア、ある特定の機種マニア、フライト中に寝るのが一番よく寝れるという睡眠マニア、LCCマニアなど、ごく普通の顔をしてそこら中に様々なタイプの飛行機マニアがいることは確認済みである。

あと書きながら思い出したのが、知人で一人、飛行機がどこをどう飛んでいるのかリアルタイムで見られるサイト?アプリ?を毎日数時間見ながら、併せてパイロットの無線を聴いているという人がいた。その人はフライトレーダーマニア、飛行機無線マニアと言うんだろうな。ただ、その人は何故か「自分はマニアでも何でもなく、ただごく普通の人間が、毎朝5時前に起きて2時間ほどフライトレーダーやパイロットの無線をチェックして、行き帰りの通勤中もチェックして、帰宅後に酒を飲みながら数時間チェックして、あと、仕事が暇になった時もこっそりチェックしている程度なんだ」と力説していたが、誰がどう見てもマニアだと思ったり。

www.flightradar24.com

閑話休題。わたしは最初の会社では仕事柄、行きと帰りをそれぞれ1回とカウントするならば平均して週2〜3回ぐらい飛行機を利用していたが、空港なんて都心部から遠いし、大して何もないし、待ち時間が長いし、飛行機の中も狭いしけっこう揺れるしで、何も楽しいものではないと思っていた。しかしそれは、わたしが楽しみ方を知らなかったからのようだ。そもそも展望デッキに出たことなんて一度もなかったし、空港の中を探索したこともなかった。意外なところに意外な楽しみ方があるということを教えてくれる作品だ。

本作が売れまくる未来はあまり見えないが、いやでも売れまくってくれないかな。こういうマニアが気持ちよく生存できれば、一人ひとりが幸せで、お金も回って社会も幸せになると思う。

極私的に大推薦の漫画……だったのだが、7巻で最終巻。こんなに面白い漫画よくそんなに簡単に打ち切りにできるな講談社さんよぉ。

山田芳裕『望郷太郎』1巻

望郷太郎(1) (モーニング KC)

望郷太郎(1) (モーニング KC)

  • 作者:山田 芳裕
  • 発売日: 2019/12/23
  • メディア: コミック
主人公は世界的大企業の幹部というか7代目の跡継ぎで、大金持ちで、家族もいて幸せエリートだったが、突如大寒波が襲来して世界は大パニック。

当時主人公はイラクにおり、もはや日本に帰る交通手段も、より南のサウジアラビアに逃げる手段もない。そこで技術的には不安があるものの、金持ちの特権で数百億円をかけて作らせた人工冬眠装置に入り、とりあえず難を逃れようとする。

そこから幾年月。1ヶ月間の冬眠のつもりだったが、眠りから覚めると500年後。妻と息子は人工冬眠に失敗して死亡、世界も完全に「人間不在」の大自然で覆われ、世界は「初期化」されていた。衣服などはまだ使えるものもあるが、電子機器は全滅。真夏は50度を超えていたイラクも、今は雪が降り積もる地域と化していた。家族も財産も会社も何もかもを失った主人公は死のうとするが、中学受験のために父親の家に預けていた長女や、父親の行く末に思いを馳せる。2人は大寒波を乗り切れたのか……? たとえ乗り切れたとしても今は500年後、どうせ生きてはいない。しかし、せめて2人がどうなったのかを確かめてから死にたいと思った主人公は、日本へ行くことを決意する。現状、周囲には人が住んでいる痕跡もなく、人っ子一人見当たらないが、とりあえず北上してカスピ海まで行き、いずれはシベリア鉄道まで行けば人類が生きていて鉄道を営んでいるのではないか……というのがプロローグであろうか。

相変わらず奇想天外。

最高に面白い。

村岡ユウ作品17冊

むねあつ

むねあつ

  • 作者:村岡ユウ
  • 発売日: 2014/06/23
  • メディア: Kindle版
やわらか

やわらか

  • 作者:村岡ユウ
  • 発売日: 2015/05/18
  • メディア: Kindle版
チキンマン~村岡ユウ短編集~

チキンマン~村岡ユウ短編集~

  • 作者:村岡ユウ
  • 発売日: 2018/08/10
  • メディア: Kindle版
村岡ユウ『もういっぽん!』1〜6巻、村岡ユウ『ウチコミ!!』全7巻、村岡ユウ『むねあつ』、村岡ユウ『やわらか』、村岡ユウ『チキンマン〜村岡ユウ短編集〜』、村岡ユウ+石井光太『葬送 2011.1.11 母校が遺体安置所になった日』で全17冊。

この人は柔道家なのかな?(笑)

ここまで柔道漫画を描いている人も珍しいと思う。才能に溢れたエリート柔道家の話ではなく、ごく普通の学校・環境・才能を持った人間が、その前提で部活を青春しながら上を目指していく話が多い。個人的には共感できる話である。地区予選で敗退しちゃう話とか。大半の人間は地区予選で敗退するからね。

あと『葬送』ね。主人公は歯科衛生士で、歯型から遺体の身元を特定していくことになる。辛く厳しい役回りだが、必要な仕事だった。泣かせるための描写ではなく、けっこう淡々としているのだが、個人的にはグッと来た。

高口里純『紅のメリーポピンズ』全4巻

紅のメリーポピンズ : 1 (ジュールコミックス)

紅のメリーポピンズ : 1 (ジュールコミックス)

  • 作者:高口里純
  • 発売日: 2014/01/31
  • メディア: Kindle版
紅のメリーポピンズ : 2 (ジュールコミックス)

紅のメリーポピンズ : 2 (ジュールコミックス)

  • 作者:高口里純
  • 発売日: 2014/09/26
  • メディア: Kindle版
紅のメリーポピンズ : 3 (ジュールコミックス)

紅のメリーポピンズ : 3 (ジュールコミックス)

  • 作者:高口里純
  • 発売日: 2014/09/26
  • メディア: Kindle版
紅のメリーポピンズ : 4 (ジュールコミックス)

紅のメリーポピンズ : 4 (ジュールコミックス)

  • 作者:高口里純
  • 発売日: 2015/03/16
  • メディア: Kindle版
スーパー・ナニーと呼ばれる、いわゆる「専門教育を受けたセレブ御用達のベビーシッター」を主人公とした物語。

と言っても、セレブなお嬢さんのイタズラによって無実の罪で国際指名手配犯になり、日本で逃亡中。逃亡しながら、ごく普通の家庭のごく普通の子育て上の悩み(しかし本人たちは必死である)を共に解決し、路銀を受け取りながら逃亡を続ける……と、まあそんな感じのアウトラインである。

主人公の言葉遣いにどうにも違和感があるのだが、そこはご愛嬌。主人公の名前はリード・フタバで、元々英国で教育を受けているそうだしね。

どうも話を上手く展開しきれなかった作品なのかなと思ったが、一方、スーパー・ナニーというのは着眼点が良いと思った。似たような設定で、再チャレンジしても面白いと思う。

平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』

特に有名な漫画家ではないのだが、急にAmazonのランキング上位に並ぶようになった作品。

以前かる~くググってみたのだが、どうやらWeb漫画であるらしいこと、Twitter経由なのか誰かのブログ経由なのかとにかく単行本ではなくWeb漫画の時点で激しく注目されていたこと、幾つかのブログで激賞されているらしいこと、ぐらいのことだけはわかった。いわゆる「バズった」んだろうな。

ストーリーはこうだ。主人公はいわゆるOLだが、ある日、親友が死んでしまう。しかし突然というほどではなかった。親友は主人公のたった一人の友達で、生きづらいこの世の中を共に生き抜くための戦友で、父親から虐待されていた。彼女は大人になってもついに健全な自己肯定感を身につけることができず、死を選んでしまったのである。主人公は半身が引きちぎられるほど悲しいんだろうな。そして衝動的に「ある行動」を起こす……と。ある行動と言ってもググればすぐ出てくるんだが、わたしは前情報なしで読み進めて「おっ」と思えたので、書くのは控えておこう。

本作は確かな画力と繊細な表現で多くの熱狂的な評価を生み出したが、一方で評価が二分とまでは行かないが、星1つ(★☆☆☆☆)の評価も目立つ。極端だが、要するに「意味がわからない」「尻すぼみ」「作者の言いたいことがわからない」「最後読者に丸投げ」というマイナス評価である。

わたしが思うに、主人公の衝動を理解できるかどうか、なんだろうな。すなわち、行動の意味を100%理解できなくても、主人公の衝動に感情移入できるかどうか。たった一人の親友が死んで、論理的・整合的な行動なんて無いよ、とわたしは思う。

ここから更に個人的な感想を書くが、ただ泣き叫ぶだけの何が悪いのか。たった一人の親友が死ぬというのは、政治家が誠に遺憾ですとコメントを出すような冷静な話ではない。そして尻すぼみなのは、それが衝動だからだと思う。ハリウッドみたく、じわじわと三幕構成で盛り上げて最後ドーン! エイドリアーン! みたいな話ばかりではない。本作のクライマックスの幕開けはオープニングの親友の死で、その後はクライマックスを受けた最後の大立ち回りなのだ。しかし永遠の衝動というものはありえない。最後が尻すぼみだろうが、わたしはマイナス評価を与えたりはしない。そういう作品なのかと思うだけだ。

短編だから綺麗にまとめるべき?

短編の様式美にがんじがらめになっている限り、新しい感動は生まれないとわたしは思う。

もうひとつ言いたい。作者の言いたいこと? 無いよそんなの。これは本作以外の、また漫画以外でも小説や映画などあらゆるジャンルのレビューに共通するが、よく「作者の言いたいことがわからない」といったレビューが散見され、その度わたしはもやっとした気持ちになる。中高の国語の授業かよ。わたしは「言いたいこと」があって描いている漫画家なんて少数派だと思う。おそらく、もやっとした「イメージ」があって、あるいは「面白いものを書きたい」という強い欲望があって、さらには「書きたいネタ」があって、だから書くんだと思う。

閑話休題。改めて書く。この漫画は衝動的な作品だ。衝動そのものだ。論理的・整合的に書かれたものではないかもしれない。上等だ。読む側も衝動に身を任せて味わえば良いと、わたしは思う。