インキュベ日記ベストセレクション2000

“極私的” 年間ベスト

村上春樹+安西水丸『「そうだ、村上さんに聞いてみよう」と世間の人々が村上春樹にとりあえずぶっつける282の大疑問に果たして村上さんはちゃんと答えられるのか?』

本書は、汲めど尽くせぬ滋養がある――といった類の本では全然ない。しかし村上春樹特有のユーモアが好きな人にはたまらない。いつ読んでも面白いです。

ノンフィクション

木村元彦『誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡』

木村元彦は本書の他に『悪者見参』『終わらぬ「民族浄化」 セルビア・モンテネグロ』『オシムの言葉』を著している。国家やナショナリズムとスポーツを絡めたアプローチが多いようだが、平易な言葉で実に読み応えのある文章を書くジャーナリストである。本書もストイコビッチ(ピクシー)という稀代のサッカープレイヤーを軸に、ただピクシーの一代記を書くのではなく、ユーゴ・サッカーという政治に翻弄されたナショナル・チームを真正面から取り上げている。

日垣隆『サイエンス・サイトーク 愛は科学で解けるのか』

「愛」という概念を科学(サイエンス)という切り口から解剖し、しかもそれを知的に面白く語るという離れ業をやってのけた本。詳しくは当時の日記に譲るが、これは面白い。必読である。

阿刀田高『ギリシア神話を知っていますか』

古典や神話をざっくりと読み解く随筆を書かせたら天下一品の著者だが、その中でも最も面白いと俺が思っているのが本書である。ギリシャの神々は日本と同じく多神教で、色んな神様がいらっしゃる。中には実に「人間的」な神様なんかもいたりして、神様なのに親近感が沸いたりするのである。

スコット・マクラウド(監訳:岡田斗司夫)『マンガ学』

漫画の分析を「話」だけでなく「絵」からもアプローチするという点で、非常に有益な本。

incubator.hatenablog.com

フィクション

宮本輝『螢川・泥の河』

2000年より前から読んできた本だが、本書は俺にとってまさに歴史的な1冊であり、改めてここで取り上げたい。小説世界が心の最深部まで降り立ち、その人間の在りようを変えてしまうという経験は、そう何度も訪れるわけではないと俺は思う。つまらない小説では絶対に起こり得ないし、タイミングも重要だ。本書と俺は、人生にそう何度も起こらないであろう稀有な出会いを果たしたのである。今、宮本輝の新刊を読もうという気は全く起こらないし、本書を読み返すこともほとんどないのだが、本書を読んだときの高揚感を忘れることは生涯ないだろう。

阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』

内容以前に表紙だけで大推薦したい。これを超えるジャケットはまだ見ていないと思う。

インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)