浅羽通明『天使の王国 平成の精神史的起源』

心霊写真にハマる人々やハルマゲドンを夢想する人々、伝言ダイヤルにハマる人々、同人誌に異常にハマるオタクな人々、やたらと新聞に投書したがる人々、そんな人々の行動や様々な社会の諸現象を通して、平成の精神を読み解いたのが本書である。

例えば、前世や輪廻転生渇望した女子中学生や女子高生が、「ハルマゲドン」に備えて「前世で共に戦った仲間」を雑誌の投稿欄で募集する現象、そして知り合った「前世の仲間」同士で、サンスクリット風の前世の名前をつける――こんな「異常」な現象が起こったことがある。俺からすれば明らかに異常な世界であり、どんなSFよりもSF的な現実離れした世界である。しかしこのSFチックな現象は、決して異常をきたした特別な人々が引き起こす単発的な現象ではなかった。「前世の名前」と聞いて――何かを、不穏な何かを連想しないだろうか? そう、「前世の名前」とは「ホーリーネーム」の異名である。つまり、この現象は深いところで一連のオウム事件へと繋がっていったのだ。伝言ダイヤルによる他人への衝動だってテレクラに繋がり、そしてインターネットや携帯電話へと繋がっていった。

本書を初めて読んだ時は衝撃そのものだった。社会の事象をこのように読み解くことができるのかと体が震えたことを思い出す。社会における“一見”自分と無関係な出来事も、本書を読むと、俺らの精神や思いや社会や現実と複雑かつ密接に絡まりあっていることがわかる。

自分の「向こう側」で起こる現代のSFは、同時に本当は何よりもリアルで何よりも身近な「こちら側」の現象だったのだ。

ワイドショーは遠い世界の事件でも遠い日の神話でもなかったのだ。

本書は読み返す度に、以前には読み解けなかった新たな発見が俺を揺さぶる。本書は俺に大きな影響を与えたと思う。少し大げさに言うならば、運命的な一冊だと言っても良いかもしれない。個人的な思いからも、必読。