村上春樹+柴田元幸『翻訳夜話』

言わずもがなの村上春樹の経歴は説明不要。柴田元幸は、東大文学部の助教授にしてトップクラスの人気を誇る翻訳家。村上春樹は作家にしては異様なほど翻訳が多いのだが、その訳文チェックを柴田元幸がよくやっているらしい。

本書は翻訳についての対談集だが、決して実践的・専門的な翻訳の指南書ではない。「俺らはこんなに翻訳が好きで、こんな風に翻訳やってんねん」ということを他の人を交えつつ楽しく喋ったのが本書である。内容は大きく4つに分かれており、「フォーラム1」では柴田元幸の大学の授業で学生の質問を交えつつ対談し、「フォーラム2」では翻訳学校で生徒を交えて対談し、挿入された「海彦山彦」ではカーヴァーとオースターの同じ作品を2人が訳すことで翻訳の違いを楽しみ、「フォーラム3」ではそれまでの内容を踏まえて若手翻訳家をゲストに翻訳についてアツく語る、という構成だ。

翻訳のことなんてわからなくても、とても面白い。意訳と逐語訳(直訳)はどちらが良いのか、翻訳者の個性は表れた方が良いのか、あるいは表れるものなのか、翻訳したら原作とは「別の作品」になるのか、「僕」と「私」と「俺」ではどう違うのか、春樹が翻訳をしまくる理由、「キュウリのようにクール」を村上春樹はどう訳したのか、外国のダジャレはどう訳すのかなど、楽しい話でいっぱいだ。「海彦山彦」での2人の訳の違いも俺はかなり面白かった。必読。