荒俣宏『シム・フースイVersion5.0 絶の島事件』

記念すべき200冊目となる本書は「シム・フースイ」シリーズの最新作。これを読みたいがために、今までの内容を思い出そうと、今月は「シム・フースイ」シリーズを全て読み返していた。やっぱ本だと漫画のように簡単には読み返せないなあ。

今回は九鬼水軍が残した秘法の謎に巻き込まれ、九鬼嘉隆の逸話やドーマンセーマンの話を織り交ぜつつ話が進んでいく。まあ推理小説の要素というか、謎解きについては少しあるけれど、ホラーっぽさはほとんどない。霊能や霊も今回は出てこない――ことはないが、ほとんど重要ではないシーンなので、そういった面では、霊能力や霊が重要な働きを担ってきた今までの「シム・フースイ」シリーズとは趣を異にしているかもしれない。「史実と伝説が複雑に絡まりあう、風水伝奇ミステリ」と背表紙には書いてあるけれど、『帝都物語』でもそうだったように、伝説やオカルトチックな話が事実や史実と全く同じレベルで語られ、そしてそのことに対して違和感を感じさせないところが、荒俣宏の真骨頂というか、凄みだろうと俺は思う。その点で、今回の構成は荒俣宏の凄みが最大限に発揮されているのではないか。

でも、今回の作品を本当に楽しもうと思ったら、やはり「シム・フースイ」シリーズを最初から読んでいかねばならないだろう。黒田龍人とミヅチの関係は、本書までの経緯を知らないと深いレベルでは理解できないからだ。

ということで、みんな荒俣宏を読もう! もっと荒俣宏が評価されてほしいと思う今日この頃。岡野玲子の漫画による陰陽師ブームのずっと前から荒俣宏は『帝都物語』などで安倍晴明や陰陽道に注目しているのですよ! この先見の明と言ったら!