インターネットの普及によって変わる俺たちの未来、(今まで見えなかったが)インターネットを活用することで見えてきた現代社会の諸相、それを本書は的確に示唆している。テーマは「日本経済」「グローバリズム」「資本主義」「政治」「メディア」「事件」「海外ニュース」「戦争」「ゴシップ」「情報戦争」と多岐に渡るが、1つ1つは短いエッセイなので読みやすい。全て興味深く読んだが、個人的に最も面白かったのは、やはり第三章の「資本主義――インターネット資本主義と消費者の時代」だろう。
しばらく前からインターネット空間で問題になっているナップスターやMP3を取り上げ、「著作権問題」から「資本主義」へと切れ込んでいく。インターネット空間では音楽や映像の著作権がかなり侵害されているのだけど、その流れは止められないものであろうと著者は述べる。わりと過激な論調で、保守的な人は抵抗を覚えるかもしれないし、俺だって、にわかには全てを受け入れることはできない。しかし、確かに(少なくとも部分的には)非常に説得的な議論だと俺は思う。
つまり、この人は、現在インターネットの登場により著作権が侵害されてしまうという現象が起こっているけれども、それよりももっと重要なこととして、インターネットの登場が著作権の概念どころか資本主義そのものの様式すら変えてしまうほどの大きな変化の可能性を孕み持つと考えているのである。にわかには信じがたいが、自分の常識が揺さぶられつつある自分もいる。本書を読むと、「作り手」と「売り手」と「受け手」の関係性は、世間や俺の予想を超えて、もっと劇的に変化するんだろう、という気にさせられる。インターネットの登場によって今ある「世界」の在りようが何十年かあとには全く変わってしまうかもしれない――という事態には、ただただ呆然とする。興味のある方は「草の根的なコミュニティ」「贈与経済的な仕組み」「物々交換の時代」あたりをキーワードに読んでみてほしい。
なお姉妹編もある。