青柳正規+糸井重里『ポンペイに学べ』

「未来を知るには、過去を知れ」をモットーに糸井重里とローマの専門家である青柳正規がざっくばらんに対談している。「現代を観測するために、ローマの価値観やら歴史やら政治やらを学び、そのことで現代に反映させられるような何かを発見することはできないか?」ということが基本的なスタンスだ。でも、この種の本にありがちな「だから文明社会はダメなんだよ!」みたいな懐古主義的な趣はほとんどないから、そーゆーところは説教臭くなくてイイと思う。

特に「奴隷」に関する対談は興味深い。無理があればそんなに制度として長続きするわけはなく、奴隷はそれほど過酷じゃなかったのだ、というのはかなり面白い論点だ。この頃のヒエラルキーは

皇帝>元老院>騎士>解放奴隷>市民>奴隷

という構図だったのだが、力と才能のある者が一生懸命に働くことで奴隷は解放奴隷へとのし上がることが可能で、解放奴隷にランクアップすれば市民よりも階級が上になるのである。対して、市民は相当に金持ちで、かつ運がないと騎士になることは不可能だ。もちろんノンビリ過ごす市民よりは汗水たらして働かされる奴隷の方が大変だろうが、奴隷とは戦争に負けて連れて来られた者たちなのだから、その者たちに希望が与えられているというのは、ある意味では寛容とも言えるのではないだろうか。

また、現在の価値観から「奴隷はダメなんだよ! だから奴隷制度を採用していたローマもダメなんだよ!」と思考停止的に叫ぶだけでは、その人が歴史から得るものは少ないだろう、とも言っている。納得。まったくその通りだと思う。