原田宗典 選『バイトの達人』

裏表紙に「バイトにまつわるさまざまな文章を厳選して収録した傑作アンソロジー」と書いてあるが、この言葉そのままの本。収録されている作家は、関川夏央・吉本ばなな・沢木耕太郎・宮本輝・原田宗典・さくらももこ・椎名誠・立松和平・安岡章太郎・四方田犬彦・村上龍・村上春樹・吉田健一・島田雅彦・五木寛之・遠藤周作・中野翠・群ようこ・高橋章子・武田百合子の20人。全員を知っている人は少ないだろうが、かなり有名な人が多いのではないだろうか。名前だけなら、俺は17人ほど知っていた。

この中では、やはり俺は村上春樹「午後の最後の芝生」に惹かれる。個人的には、これは村上春樹の短編の中でも白眉じゃないかなと思う。俺は村上春樹の短編はどうも好きになれないことが多いんだけど、これはめちゃくちゃ惹かれて何度も何度も読み返した記憶がある。村上龍「ジョン・レノンのこと」も、村上龍の文章の中では傑作だと思う。

立松和平のわずか3ページの作品「古本屋の店主」は、本好きな人なら共感できるだろう。このオッサンの最後のセリフが良いなあと俺は思った。宮本輝「夕刊とたこ焼き」は完成された構成に唸らされる。隙がない。宮本輝の真骨頂を見せられた感じ。あざといと思うこともあるけど、読み手の心を揺さぶるということにかけては、宮本輝は若くして完成されていた書き手だったと思う(ちなみに俺は初期の宮本輝は好きだがある時期以降の宮本輝は全く読まない)。あとは、安岡章太郎「ガラスの靴」も良かったかな。

20人もいる上に短編小説もエッセイも収録されているため、非常にバラエティに富んでおり、お得感が高い。作品は再収録が基本なのだが、全て読んだことがある人などほとんどいないだろうし、かなりオススメの1冊だと俺は思う。あまり本を読まない人への、活字の入門的な1冊としても面白いんじゃなかろうか。この中で面白いと思った作家の本を次に読んでみる――みたいな感じで。