藤原和博『世界でいちばん受けたい授業2』

本書は前著『世界でいちばん受けたい授業』の続編である。

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『世界でいちばん受けたい授業』が経済や政治を中心的に扱った『よのなか』の実践書だったのに対し、本書は現代社会・道徳・法律の問題を扱った『ルール』の実践書である。『世界でいちばん受けたい授業』と比べ、よりデリケートな問題を扱っているのだが、そのような問題を生徒は正面から受け止め、思った以上に深く深く考えている。それはディベートなどから端的に見て取れる。生徒たちの「生きるチカラ」の向上は、読んでいて感動的ですらある。

[よのなか]科の狙いは、狭義の学力の習得ではなく、知識や概念をよのなかで通用する力に変える技術――「生きるチカラ」の獲得にある。「国語」「英語」「数学」「理科」「社会」「音楽・体育・美術・技術家庭」といった狭義の学力は、[よのなか]科では、それぞれ「コミュニケーションするチカラ」「外国人ともコミュニケーションするチカラ」「ロジックするチカラ」「シミュレーションするチカラ」「ロールプレイングするチカラ」「プレゼンテーションするチカラ」と捉え直されていく。

とはいえ、藤原和博は必ずしも既存の知識教育や反復学習を全て否定しているわけではない。前パラグラフで書いたように「知識を実際に使えるかどうか」を重視しているのである。基礎力としての狭義の学力を「情報処理力」、応用力としての生きるチカラを「情報編集力」として藤原和博は位置づける。情報編集力は今まで重視されてこなかったし、情報編集力を学ぶ(あるいは学び合う)環境は整備されてこなかったから、これからはその双方を学校で学ぶ(あるいは学び合う)ことを主張し、そして実際に実践しているのである。

俺も知識教育と反復学習と[よのなか]科的学習は、複合的に展開されるべきだと思っているが、、[よのなか]科の効果は本書を読めば一目瞭然であろう。まず単純に魅力ある面白い授業だ。そして確かに生徒たちの「生きるチカラ」はゲットされている。成長ぶりは活字を通しても明らかに伝わる。また『世界でいちばん受けたい授業』にも本書にも章末には生徒配布用ワークシートがついており、実際に学校で[よのなか]科を実戦することも可能である。実践的だ。本書は決して机上の空論ではないのである。本書を読めば、どこまでも迷走し、完全に腐りきっていると思われた教育業界の、「新しいダイナミズム」を体感できる。必読。

なお藤原和博は学校の教師ではない。いわゆる民間人である。藤原和博は東大経済学部卒業後、当時は中小企業だったリクルートに入社し、東京営業部統括部長、新規事業担当部長などを歴任し、ロンドン大学ビジネススクール客員研究員を経て、96年に年俸契約の「フェロー」として独立する(フェローというキャリアシステムも藤原和博が自分で送出したのだそうだ)。まあ詳しい経歴は藤原和博のホームページに詳しいのでコレくらいにしておくが、めちゃくちゃ幅広くかつスゴい仕事をしている。デビュー作『処生術』もベストセラーとなっているようだ。

つまり経歴としてはけっこう華々しい。とはいえ、いわゆる「天才」というわけではなく、それだけのビジョンと実行力を持っているから成功しているのだろう。そして今は「息子の社会の教科書を見た」ことをきっかけに教育界に革命を起こし続けている。凄まじい人物だ。正直に言って今めちゃくちゃ藤原和博にハマっている。これから他の著書も読んでいくだろう。以前から「スーパーサラリーマン」と呼ばれ若手ビジネスマンなどから支持を集めているそうだが、教育界からも、いま最もアツい視線を浴びている男らしい。何と言っても、遂に東京都初の「公立中学“民間人”校長」だからな〜。