佐藤信夫『レトリック感覚』

直喩・隠喩・換喩・提喩・誇張法・列叙法・援叙法――と、あるいは章題を並べるだけで嫌になってしまう人もいるかもしれないが、難解な議論は多くない。もちろん立ち入った議論も中にはあるが、基本的には具体例を多く取り上げながらレトリック(修辞)について論じている。わかりやすい。

また、さすがレトリックの専門家というべきか、著者本人の文体も洒脱で明晰だ。とかくレトリックは敬遠されたり誤解されたりすることがあるが、微妙なニュアンスをも含めて自分の意見を正しく伝えようとするならば、あるいは自分の意見を印象深く伝えようとするならば、ロジックだけでなくレトリックに対する配慮も不可欠だろう。そのことを佐藤信夫の文体が雄弁に物語っている。