金子勝+大澤真幸『見たくない思想的現実を見る』

政策的な提言などを積極的に行う経済学者の金子勝と、理論系の社会学者では日本で最も質の高い仕事をしていると思われる大澤真幸の、共同取材によるルポと討論。「沖縄問題」「高齢者医療」「過疎問題」「韓国ナショナリズム」「若者の就職難」といった5つのテーマについて、それぞれ金子勝→大澤真幸の順番でルポを載せている。

常に金子勝が先に書いているのは、大澤真幸の遅筆のためだそうで、本書で数回ほど出ていたが、この問題にはかなり参ったようだ。確かに、こういったタイムリーな話題を扱う本の場合、タイミングを外してしまうと多少かっこ悪い(そして実際に幾つかはタイミングを外してしまったそうだ)。また、常に大澤は金子の論文を見てからということになり、金子は「いつでも後出しジャンケンされる」といったフラストレーションがたまったそうだ。そのためかどうかは知らないが、5つずつのルポの後、本書のルポと9.11テロを踏まえた討論が収録されている。

討論などは多少「話が噛み合ってないのでは?」と思うところもある気がしないでもないが、それぞれのルポの長さも程々で、経済学者と理論社会学者という視点の違いも味わえて、なかなか面白いのではないかと思う。ただ、大澤の「第三者の審級」概念は、知らない人が読むと面食らうかもしれないなあ。俺も実際きっちりと理解できているわけではないから、「誤魔化されている」感を少し持ったのは否めない。社会学や哲学の素養がない人も読むだろうし、その点は少し配慮した方が良かったんじゃないかと俺は思った。