村上龍『「教育の崩壊」という嘘』

教育をめぐる状況について村上龍が幾つかの対談を行っている。それも面白いが、白眉は巻末の中学生1600人に対するアンケートである。設問は以下の11だ。

1:将来のことを考えるとき、どんな気分になりますか?
2:大人になって、やってみたいことは何ですか?
3:あなたの周りにいる大人たちは楽しそうに生きていますか?
4:絶対に許せない大人というのはどういうタイプの大人ですか?
5:あなたにとって、胸がワクワクするのはどういうときですか?
6:ホームレスをどう思いますか? またホームレスを襲撃する子どもをどう思いますか?
7:世の中は平等にできていると思いますか? それとも不平等だと思いますか?
8:あなたは、あなたの親と同じように生きたいと思いますか?
9:有名になりたいと思いますか?
10:自殺について考えたことがありますか?
11:あなたにとって希望とは何ですか?

昨今の凶悪事件もあり、つい「今の子どもは……」などと捉えがちだが、俺はアンケート結果を見て、その無気力さも、シニカルさも、大人への憧れも、大人に対する嫌悪感も、将来への不安も、暴力性も、孤独への恐怖も、無邪気さも、全て含めて健全だなと俺は感じた。そして、この中の幾つかには、非常に感じ入る回答もあった。4に「リストラされたぐらいで死のうと思うやつ」「国会でねている人」と答える生徒、7に「不平等です。だからこそ面白い」と答える生徒、11に「私にとって希望とは、自分の『意志』という言葉と同じ意味です」と答える生徒などは、極めて真っ当な感覚を持っており、頼もしい。

もちろん、将来への不安、暴力性、孤独への恐怖――そうしたものに課題や問題を読み取ることは可能である。しかしそれすら、子どもの異常性を示す回答というよりは、(たとえケアが必要であっても)思春期特有の感情や、(思春期の子どもに限らない)日本全体を覆う問題が、アンケートに反映されたと見るべきだろう。子どもの問題は日本全体の問題が反映されているのだ、といったことを本書の中で誰かが指摘していたはずだが、その通りだと思う。決して中学生全般がモンスターのような存在になったわけではないのだという当たり前の結果がアンケートで示されたと思う。

ことさら子どもの異常性や子どもの変わった部分を取り立てて議論するのではなく、きちんと「変わらないところ」「子どもの問題ではなく社会全体の問題」を踏まえてから次の議論に進むべきではないか。このアンケートは色々なことを考えさせられると俺は思った。ぜひアンケートだけでも一読すべき。