ピーター・キャペリ『ハーバード・ビジネス・エッセンシャルズ[2] 人事力』

企業の「優秀な人材の採用と引き止め」に関する事柄を中心的に扱っている。対象はアメリカの企業であり、また読者の対象も若手社員というよりは管理職や採用担当者向けの本である。そのため参考にしづらい部分も多少あったが、非常に面白いと思える観点もあった。それは、引き止められずに辞めてしまった優秀な社員との関係についてである。

無能な社員ならともかく、優秀な社員に辞められてしまうのは非常に大きな損失である。しかし、やり方によっては損失をプラスに変えることもできると本書は説く。というのも、例えば社員がクライアント先に移籍した場合、辞めた社員が優秀であればあるほど、それは相応の権限や資金を持った潜在顧客だからである。退職の際に泥を塗りあうようなことはせず、新しい仕事を祝福し、連絡を取り続け、常に求人情報を流し、あくまでも良い関係を維持し続けることが大事だと本書は説いている。

また、出口調査を実施することで、自分のキャリアに影響が及ばない立場の人間から意見を聞けるということもある。退職の原因となった原因を解決することで、企業がより良い方向に成長できるし、良い関係を維持したまま退職の原因を取り除き、「優秀な元社員の再雇用」という取り組みも行っていくことも重要になるそうだ。俺が大きな説得力と魅力を感じた部分を少し引用してみたい。

 価値ある社員が辞めたからといって、永遠にいなくなると考える必要はない。子どもが小さい間は仕事を離れても、数年後には復帰できる女性もいる。より大きなチャンスを求めて転職したものの、期待はずれに終わった社員もいる。

 再雇用者は会社に利益になることが多い。彼らはまず、会社をよく知り、仕事のやり方もわきまえている。一般の採用者が何ヶ月もかけて仕事のコツを覚えることに比べれば大きな優位点である。2番目に、再雇用者は幅広い経験と、多くの場合、新しいスキルを身につけて戻ってくる。最後に、彼らは元の職場に戻ってくることにより、周囲の人間に「隣の芝生は青くない」ことを行動で示してくれる。

元社員が新しい仕事に不満を感じて辞めたとしても、優秀な社員が優秀であることに変わりはないし、キャリアチェンジやキャリアアップに失敗した(しかし新たなスキルや経験を身につけた)優秀な元社員を快く迎えることは、企業の活性化にも大きく貢献すると思う。また優秀な社員を呼び込むことにも繋がるだろう。「辞めた優秀な社員との関係維持」や「元社員の再雇用」という考え方は非常に有益だと思った。人材の流動化が叫ばれる現代、これくらいのことは日本の企業もやらないとね。