田中明子『ネットのパン屋で成功しました』

前にテレビの特集で観て気になっていた人。「たなかめいこ」と読むんだけど、店の名前も人の名前も覚えていなかったので、たまたま本屋で本書を見つけるまですっかり忘れていた。

内容は、若干27歳にして超高級パンで大人気の「ルセット」というネット販売のパン屋を運営する田中明子が、創業に至るまでの経緯や、どのように店を軌道に乗せていったのか、どのような戦略を採ったのかを述べる、といった感じ。本書を読むと、とにかくビジネスにはマーケティングと高付加価値が大事だということを否応なく再認識させてくれる。何しろルセットは超が4つくらいつくほどの高価格帯のパンで、しかもネット販売では種類も3つしかない。しかし売り始めて10分もすれば完売するのである。

基本的なルセットの戦略は、先ほども述べたマーケティングと高付加価値、それにセグメンテーションである。今パン屋は大人気で、パン屋を開店しようとする人も後を絶たないのだという。しかしパンは保存が利かないし、1つ100円や200円の一般的な値段の安いパンで利益を出していくのはビジネスとして非常に難しく、開店しても数年で店をたたむ人が続出しているそうだ。それなら、価格勝負の消耗戦に巻き込まれない、高価格・高付加価値のパンに特化して勝負しよう、そして実際の店舗とWEBの品揃えを変えて「WEBでなければ買えないパン」を用意して、さらなる価値をネットのパンに付加しよう――というのがルセットの発想である。

ルセットのHPに行ってみたが、先述したように、何しろ高い上にネット販売は3種類しかない。@シナモン(アット-シナモン)が2600円、@バニラ(アット-バニラ)が3600円、@ベリー(アット-ベリー)が1800円、そして3種類全てが限定販売である。しかし、サイトを見てもらえばわかるが、超高級素材を使った超こだわりのパンである。買わない人は買わないが、ちょっと贅沢してみたい人や食にこだわりたい人、限定やブランドに弱い人、食べてハマった人は、ここぞとばかり飛びつくだろう。俺も一度は食べてみたい。そんな人が殺到するからサイトで販売を始めても10分もせずに売り切れる。そして噂が噂を呼び、次の販売も待ってましたとばかりに売り切れる。高価格・高付加価値のパンなので、多くの数は作れないが、同時に数を作れなくても利益を出せるモデルとなっているのである。1つ1つの値段が高いし、作った分だけ全部きっちり売れるのだから。なかなかよく考えられていると思った。

ただ、パン屋ってとても大変だなと強く感じた。好きなパンを焼いて生きていけるんだからパン好きにはタマラナイだろううなと思っていたが、いかにも甘い考えだった。本当にパンが好きで、重労働とデリケートな仕事と長時間労働の全てに耐え、しかも傑出する戦略を立てられない限りは、パン屋を安易に開業するのは控えた方が良さそうだ。商売は何でも大変だと実感。俺と同世代でここまでやるなんてスゴいよ。