菅谷明子『未来をつくる図書館』

このところ図書館を頻繁に利用しているだけに、その有り難さの反面、しばしば「せっかくの施設が勿体ないなあ」と思うことがある。IT時代の今だからこそITインフラとして図書館がもっと進化すべきなのに、結局は「図書の無料貸し出し」「暇つぶし」「自習室代わり」「新聞や雑誌代をケチる場所」に終始している。そんな風に漠然と思っていたため、本書を見つけて読んでみたというわけだ。

世界屈指の規模と質を誇るニューヨーク公共図書館は、膨大な書籍や最新の検索システムを備えていることは言うまでもなく、個人で利用すれば膨大な金がかかる(あるいは法人でないと利用できない)各種データベースも無料で利用できる。それだけでも本当にスゴいのだが、もはや狭義の「図書館」という枠を超えて、専門知識を備えたビジネス専門の司書が常駐してビジネスマンに対して様々なアドバイスやフォローを行うばかりか、起業や芸術の支援、失業者の就業支援、ビジネスやコンピュータ・語学を初めとした様々な分野の無料講座、子どものための宿題支援やコミュニティの提供、ビジネスに限らない様々なネットワーク形成の場の提供など、挙げるとキリがないほど多様なサービスを展開し、地域社会に貢献している。あまりにも著者がニューヨーク公共図書館をベタ褒めしているので逆に引いてしまう部分もあるが、日本の一般的な図書館と比べると実際スゴいと思う。

ちなみにニューヨーク公共図書館はNPOであり、主に外部からの寄付で運営されている。そのためニューヨーク公共図書館には、資金を集める事業開発部や、図書館のイメージ戦略を行うコミュニケーション&マーケティング部もあり、裏方も一流のスタッフを揃えている。彼らの報酬は決して高いものではないが、高い社会的な意義があるため、みんな誇りを持って働いているらしい。そりゃあ利用者からすれば至れり尽くせりだし、こんなところで働けるなら俺だって働きたい。こんな図書館が日本にもあればなあ。