ローレンス・J・ピーター&レイモンド・ハル『ピーターの法則――創造的無能のすすめ』

「階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに到達する」というピーターの法則、そしてピーターの法則から導き出される「やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる。仕事は、まだ無能レベルに達していない人間によって行われている」というピーターの必然、この2つが本書の基調である。非常に衝撃的で、興味深い内容だ。

例えば、企業(企業以外でも、学校など、階層社会の階層組織であれば同じことだ)において、平社員として求められる有能さを発揮した者は次のポストへと昇進する。しかし無能さを露呈すれば次のポストには昇進できない。今度は主任や係長において求められる有能さを発揮できた者は次のポストへと昇進できる。しかし求められる有能さを発揮できず無能さを露呈すれば、次のポストに昇進できることはない。そして今度は課長として求められる有能さを発揮できた者はさらに次のポストへと昇進できるが、課長として無能さを露呈すれば、やはり次のポストへは昇進できない。部長でも、副社長でも、社長でも、同じことだ。

基本的な約束を守れない、マネジメント力がない、部下の育成能力がない、コミュニケーション力がない、事務処理能力がない、財務能力がない、戦略策定能力がないなど、その他、それぞれのポストの適性に欠けていたり、能力的な限界や体力的な限界を迎えてしまったりして、何らかの形で無能さを露呈したポストで、その人の昇進は止まる。そして組織は、あらゆるポストが職責を果たせない無能な人間によって占められるようになる――。

本書を読んで、「若いチカラ」などというものの本質が初めて掴めたような気がした。脳の機能が加齢によって容易に衰えないことは既に脳科学における事実なのに、「若いチカラ」といったものが未だに持ち上げられるのは、俺には納得しがたいものがあった。しかしそれは、若者に可能性があるから「若い力」を欲していたというわけではなく、単に組織が無能レベルに達している(達しつつある)ために、まだ無能レベルに達していない人間を欲していたのだ。

著者は「階層社会学」なるものを提唱している。しかし、階層社会学は私の提唱した新しい学問だから参考文献はないのだ、とうそぶいて参考文献をつけていないし、本書は厳密な意味では学術書とは言えないだろう。どこかユーモラスでパロディチックな文体だし、のらりくらりとしていて、どこまで本気で言っているのかわからないような内容でもある。しかし得られるものは非常に多い本だ。組織と個人の関係性を問い直したい方には必読と言えるだろう。