木村剛『借り手のための金融戦略』

木村剛とは、日銀を経て、現在は金融コンサルティング会社を経営している人物だが、今は日本振興銀行を立ち上げた中心人物と言った方がピンと来るかもしれない。本書も日本振興銀行の話がメインである。

日本振興銀行とは、東京青年会議所のメンバーや木村剛などが中心となって立ち上げた、中小企業の融資に特化した新銀行である。中小企業は、直接マーケットから資金を調達することは難しく、現実として中小企業のファイナンスは間接金融で支えるしかない。しかし、いま中小企業が資金を調達する手段は、2〜3%を中心とした銀行の融資と20%の商工ローンの2つで、実は5〜15%の貸出金利ゾーンが抜け落ちている。そこで、ミドルリスク・ミドルリターンのパイオニアとして、この貸出金利ゾーンで(個人保証や担保を求めることなく)中小企業に貸し出すことで、中小企業を支えよう――というのが日本振興銀行のビジネスモデルである。つまり、中小企業に無担保や個人保証なしで貸し出すという点ではリスキーだが、その分、貸出金利を上乗せすることで、中小企業の資金需要に応えようとしている。

いかんせん初年度200億という(信金や信組よりも)小さな規模の銀行なので、1兆5000億円とも言われる資産規模の東京都新銀行構想に霞んだ感も多少あるが、日本振興銀行の設立騒動が与えたインパクトはやはり大きなものだと思う。その証拠に、以前は「中小企業には資金のニーズがないから貸せないんだ」などと言っていたメガバンクが、今は掌を返したように中小企業の融資に力を入れ始めている。木村剛の言うように、本当に日本振興銀行が直接的なトリガーとなって、既存のメガバンクが中小企業の融資に力を入れ始めたのかどうかは、俺には正直よくわからない。ただ少なくとも、間接的に銀行経営に影響を与えたことは確かだろう。まだ始まったばかりなので日本振興銀行が一体どうなるかはサッパリわからないが、注目したい。