伊藤守『もしもウサギにコーチがいたら』

本書は「イソップ童話のウサギ(カメと競争して負けるウサギである)にコーチがいたら一体どうなっていただろうか」という発想から内容が構成されている。卯年の著者はウサギに肩入れしてしまうそうだが、確かにウサギにコーチがいたら、もっと違う結果になっただろう。ウサギとカメの話は大体「油断大敵」などの手垢にまみれた言葉で締めくくられるが、ウサギの側に温かい(つまりコーチング的な)スポットライトを当てたら、もっと違った解釈ができると俺も思う。ウサギをどう知るか、ウサギをどう動機づけるか、ウサギをどう変えるか、といった自発的な側面である。本書では、なかなか目標を実現できない、目標に対して努力できない、目標が見えない、他人の話を聞けない、自己有能感のない、そういった人が巧みに「ウサギ」に喩えられていく。そしてウサギ(人)の視点を変えるコーチングが本の中で行われるのである。

著者の本については、以前『コーチング・マネジメント』を読んだことがあるが、こちらも相当クオリティは高かった。コーチングのイロハを知るには、丁寧に整理されている『コーチング・マネジメント』の方がより適当だろう。ただ、本書(『もしもウサギにコーチがいたら』)は、コーチングがより身近に感じられるようにウサギの比喩を巧みに用いているため、より読み物としての面白みがある。どちらも非常に良い本なので、コーチングに興味のある方は必読であろう。