和田勉『買収ファンド』

買収ファンド―ハゲタカか、経営革命か (光文社新書)

買収ファンド―ハゲタカか、経営革命か (光文社新書)

「買収ファンド」という書名を見て俺が思い起こしたのは、いわゆる「ハゲタカファンド」という言葉である。外資系買収ファンドに対して十把一絡げに「ハゲタカファンド」と感情的にレッテルを貼る人もいるが、果たしてハゲタカファンドとは何なのだろうか、という疑問を持っていた。
そもそも買収ファンドというのは「買収した時よりも企業の価値を向上させて転売することにより儲けるビジネス」である。安く買い叩かれるというが、それは業績不振で企業の価値が低下しているからではないのか。しかも会社にとって買収ファンド会社とは企業価値を向上させるべく動いてくれている存在なのに、それをハゲタカ呼ばわりするとは何事か――簡単に言えば、そういう疑問である。本書では、ファンドに関するそうした疑問に対しても、一定の回答を示してくれている。
通常の買収ファンドのビジネスモデルとは、将来キャッシュフローや収益力などを評価して算出した現在価値を元に、適正な値段で企業を買収し、経営努力で企業価値を上げて転売する、というものだ。それに対して、ハゲタカファンドのビジネスモデルとは、経営不振の企業を安く買い叩き、本来の(つまり現在価値ベースの適正な)値段で売る、あるいは安く買い叩いた企業を再建せずに清算して儲けを出す、といったものである。ハゲタカファンドといった言葉は多分に感覚的に使われてきた面もあるため、それほど固定的な定義があるわけではないようだが、この回答であれば俺にも納得できる。
ファンドビジネスは、少し前までは実態がほとんど明らかになっていなかったという事情もあり、まだ完全に整理されているとは言えない。また、スピーディーに色々なことが変化し続けている。つまり、まだ日本では発展途上のビジネス形態なのである。それだけに、非常に興味深い。著者も著者の他の本も読んでみたい。
ちなみに、和田勉といっても、あの和田勉とは別人である。