村上春樹『海辺のカフカ(上)』

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)

文庫版を待ちに待って、やっと購入。
海辺のカフカ』は、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の続編――というわけではない(直接的な繋がりはない)。しかし精神的なつながりを持った作品だそうだ。奇数章と偶数章で2つの物語がパラレルに進行するところも、やはり『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』が意識されているのだろう。
あまり筋を書くのもアレなんだが、裏表紙や本屋のポップで書かれている範囲で、さわりの部分を簡単に説明すると、奇数章は、ある人物にある予言をされた15歳の田村カフカ少年が、「世界でいちばんタフな少年になる」べく家出をする。そして偶数章は、字が読めず、猫と話のできるナカタさんが、猫探しの仕事を引き受ける――といった感じだろうか。『海辺のカフカ」を読まなければ何のことかわからないと思うけれど、まあ小説って、そんなもんです。小説の筋なんて、自分で読まなきゃ意味のないものだし、自分で読むなら他人に詳しく教えてもらう必要なんてない。
とりあず俺が特に気に入った一節は、

 ナカタさんは咳払いをした。「実を言いますと、鯖はナカタもずいぶん好きです。もちろんウナギも好きですが」
「わたくしもウナギは好物です。いつもいつも食べられるというものではありませんけれど」
「まったくそのとおりです。いつもいつも食べられるというものではありません」
 それから二人はめいめいにウナギについて沈思黙考した。二人のあいだに、ウナギについて深く考えるだけの時間が流れた。

ってところかな。「二人のあいだに、ウナギについて深く考えるだけの時間が流れた」ってところが良いね。味わい深くてユーモアのある一節だ。個人的には必読なんだけれど、小説を読むことは極めて個人的な行為だし、説明は難しい。やたらと平積みされているので、興味のある方は、ぜひ。