斎藤環『「負けた」教の信者たち』

本書では、自分を「負け組」と称することで他人からの自分に対する否定を防ぎ、自分を守る――という現代日本特有のナルシシズムを「自傷的自己愛」と規定している。特徴的なのは、「勝ち組」の定義はハッキリしておらず、また一般的に勝ち組とされている人が自らを負け組と称してしまう場面も多々あるということだ。
細かいところでは異論もあるし、俺の実感とも違う点もある。ただ大筋では、これは現代日本社会を考える上で非常に重要な概念になるような気がする。それに(俺は勝ち組・負け組といった表現自体あまり好きではないが)つい自分を負け組と言ってしまう――という心情は、個人的には、わからないでもない。
ところで著者は後半部分で、イラクで人質になった例の3人には救出にかかった費用を負担させるべきだ――といった世論を批判している。正直、俺は負担させた方が良かったのではないかとも思っていたので、そこは理解できなかった。