- 作者: 杉山経昌
- 出版社/メーカー: 築地書館
- 発売日: 2005/02
- メディア: 単行本
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まず、家族揃って仕事や魅力的な生活インフラや地縁を捨てて田舎で隠遁生活を送ることが一体どれだけ難しいか、実体験者であると共に相談を数多く受けている著者であれば容易にわかるだろう。俺も、ベッドタウン生まれベッドタウン育ちの地元のツレが「宮崎か高知あたりで農業やって、週休4日でお気楽に暮らすべ」なんて言ったら、「オマエの人生だから反対はしないが、それで本当に良いのか、問題を整理してもう一度よーく一緒に考えてみようや」と再考を促すと思う。
それに、著者はアッサリ逃げたかもしれないが、著者が逃げ出した役割は、現代日本社会において誰かが担わなければならないのである。著者の人生なのだから無責任だとは全く思わないが、満員電車に乗るサラリーマンに対して終始ステロタイプな描写しかないところを見ると、無邪気だなあと思う。誰かが都会人の食料を作らなければならないように、誰かが田舎の生活インフラを下支えするために満員電車に乗っている。著者が田舎で使うテレビや農薬は誰かが満員電車に乗って作っているのだし、作られた作物の物流も誰かが都会まで運んでいる。歯車化と揶揄されようと、それが社会なのである。農業の良さを伝えようとするあまり、本書が無批判な農業礼賛になってしまい、その視点がすっぽりと抜け落ち、安っぽい図式化に堕してしまっているように思う。
……と批判めいたことを書いたが、まあ概ね興味深い。「生活の術の多様性を提供する」という意味では、非常に面白いし、体験に基づいた実践ノウハウも詰め込まれており、いざ農業デビューしようとした人にとって有益な本だとは思う。