重松清『ビフォア・ラン』

ビフォア・ラン (幻冬舎文庫)

ビフォア・ラン (幻冬舎文庫)

重松清のデビュー作。といっても、重松清は元フリーライターで、別名で多くの仕事をやっていたらしいので、「重松清」名義での処女長編小説――ということになろうか。
本書の主人公は、要領良く物事をこなす能力はあるが、真面目に勉強を頑張っていたわけではない、平凡な高校生である。主人公は、授業で「トラウマ」という言葉を知り、平凡な高校生活に彩りを添える「トラウマづくり」のため、まだ死んでもいない、そしてろくに話したこともない元・同級生の女の墓を仲間と作る。ところが、自分たちから遠い存在でしかなかった元・同級生が自分たちの前に現れ――というストーリーだろうか。
いささか強引なストーリーだとは思うし、文章も今ほど洗練されてはいない。だが、著者の今の文章はあざといほどに巧いので、人によっては、この頃の素朴な文体は逆に叙情を感じるかもしれない。