渡邊奈々『チェンジメーカー 社会起業家が世の中を変える』

チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える

チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える

「ソーシャル・アントレプレナーシップ」「ソーシャル・ベンチャー」などと呼ばれるコンセプトがある。福祉や教育といった社会的な意義の高い分野に対して、利益主導ビジネスの形も無償ボランティア的な形も取らず、戦略やビジョン、マネジメントの手法を福祉や教育の分野に持ち込んで社会的な課題を解決しようとする働き方ないし集団――と定義すれば良いだろうか。最近MBAのプログラムにもソーシャル・アントレプレナーシップが組み込まれるなど、注目されていることは知っていたが、いざ定義しようとすると難しいなあ。
本書は、NPONGOの中でソーシャル・アントレプレナーとして活躍する人にインタビューを重ねたものである。アツい気持ちと冷静な判断力が必要とされる困難な道ではあるが、皆それぞれ誇りを持って自分が選んだ道を突き進んでいるので、輝いている。
個人的に面白かったのが「ホスピタル・クラウン」という活動である。舞台や映画・サーカスで経験を積んだプロの役者が、さらに600時間の訓練を受け、「道化」として病院内の子どもたちの恐れや不安を軽減して回るというものだ。手術後の回復が早まることも実証されているそうだが、決してお気楽な仕事ではなく、時には麻酔を使えない子どものため、手術中の子どもを笑わせたりもしている。まさに命のかかったパフォーマンスと言えるだろう。
また、とても繊細な配慮も必要となる。

「子供が私たちに病室に入ってきてほしいって、表情やボディ・ランゲージでヒントをくれるまでは、絶対に近づいてはダメ。常に受け身で入院生活を送る子供たちに決定権を与えるチャンスなの。いったん病室に入ったら、手品やシャボン玉を始めたり、患者の家族を巻き込んで、楽しい空気をかもし出す。一番難しいのは切り上げるタイミングね。子供の心にポッと火がついて、病気の子の中に少しでも残っている健康な部分が引き出されたところで、サーッと切り上げて、私たちは姿を消す。最後の印象がとっても大切なの」

普通の人には決してできない芸当である。まさにプロフェッショナルだ。