藤沢久美『なぜ、御用聞きビジネスが伸びているのか』

NHK教育テレビで放送されていた「21世紀ビジネス塾」は、俺が最も好きだった番組の1つである。いわゆる現代型の「ベンチャー企業」ではなく、一工夫を加えてビジネスの幅を広げた地方の「中小企業」が多く紹介されており、非常に面白い番組だった。著者は「21世紀ビジネス塾」のキャスターだったが、約400社の中小企業に取材を重ねるうち、以下のような理由から中小企業に強く惹かれるようになる。

大企業と比べて遅れていると思われがちな中小企業のなかに、時代の変化を先取りして、いち早く自社のビジネスに結びつけている元気な企業が数多くありました。一見、小さな企業の小さな工夫であっても、つぶさに見れば見るほど、それが最先端のビジネスの姿であることに気づいたのです。

こうした動きの中から中小企業の中に生まれてきた象徴的な動きが「御用聞きビジネス」であり、それをまとめたのが本書である。もちろん御用聞きビジネスと言っても、担当の家や企業に日参して「何かありませんか」「そろそろお願いしますよ」と言うだけの、古式ゆかしき「サザエさん三河屋さん」の世界とはちょっと違う。時として泥臭い作業も厭わずに顧客の心を掴み、顧客の感じている課題を感覚として掴み、それを提案・商品化してビジネスに結びつけるための工夫を怠らない企業が、「御用聞きビジネス」として紹介されているのである。
いま俺が働いているIT業界では「ソリューション」というマジックワードが流行語として飛び交っているが、いざ「ソリューション」の意味するところを紐解いてみると、「御用聞きではない」だったり「売り込みではない」だったり「顧客の経営課題を掴む」だったり、結局よくわかるようなわからないような、そして人や場面によって都合良く解釈されて用いられている言葉でしかない……というのが俺の実感である。
結局、本書で述べられている「21世紀型御用聞き」という発想が、中小企業のビジネスにおける多くの基本型になると俺は思う。本書で挙げられている「10の発想転換」は、俺の実感とも合うし、注目されている中小企業の多くの実情とも合っているように思う。サラッと読める内容だが、非常にオススメ。関心のある方には必読。
余談だが、「21世紀ビジネス塾」終わってほしくなかったな〜。