中野シズカ『刺星』

刺星

刺星

帯の「模倣すら許さぬ超新星!」という言葉に偽りはない。パッと一目見て他の漫画家とは明らかに違う。スクリーントーンの使用量が半端じゃないのである。「これでもか!」と徹底的にスクリーントーンを使い倒している。ここまでスクリーントーンを複雑かつ大量に用いるとなると、スクリーントーンを切り貼りする作業も相当な労力らしいのだが、幸福にも、本書においてスクリーントーンの効果は絶大である。どことなくふわふわと現実離れした幻想的なストーリーとも相まって、他に類のない詩的な短編集となった。
どれもこれも面白いが、個人的には「エトワール」を大推薦。青年が夜道を歩いていると、ハンマーでいきなり頭を殴られる! しかし衝撃の割には痛くもないし怪我もない。この特許申請中ハンマーは、どうやら殴られた人の資質や才能を綺麗な星(エトワール)に結晶化させることができる特殊なハンマーらしい。青年は、「研究」と称してハンマーで自分を殴打した学者先生と一緒に、なし崩し的に道行く人の星(エトワール)集めに協力する――といったアウトライン。これは今までに読んだ漫画の中でも屈指の美しさを持った短編。
他にも、赤と黒の二色刷の巻頭作「The catcher in the chocolate」や表題作「刺星」、まるで香りが読み手にまで漂ってくるような「シナモン」など、読み応えのある作品ばかりである。「The catcher in the chocolate」などは、二色刷といっても、スクリーントーンの効果で無限とも思えるほどの色彩感を持っている。量産しづらい作風であろうが、早く新しい作品を読んでみたい漫画家である。