劇団ひとり『陰日向に咲く』

陰日向に咲く

陰日向に咲く

「道草」「拝啓、僕のアイドル様」「ピンボケな私」「Over Run」「鳴き砂を歩く犬」の五編が収録された短編集。ホームレスに憧れるあまり本当にホームレス生活を送ってしまうサラリーマン、アイドルオタク、自称カメラマンの卵の20歳女(しかし本当はカメラマンに大して興味はない)、ギャンブルにのめり込み借金まみれの中年男、浅草のストリップ劇場の売れない(そして面白くない)お笑い芸人――といった社会のレールに乗りきれない落ちこぼれた人々の哀しさと愛おしさを、デビュー作とは思えないほど巧みに小説に仕立て上げている。タレントや俳優としての劇団ひとりには前々から注目していたこともあり、半ば興味本位で入したのだが……正直に言って驚いた。
お笑い芸人は仕事として日常的に「ネタ」を書くこともあり、文章力や構成力もなかなかのものだが、一番の魅力は、お笑い芸人としての「一人芝居」の魅力にも通じる、人間観察の深さであろう。お笑い芸人としての強みがここまで小説の描写にも活かされるとは、想像も出来なかった。「陰日向」に生きる「格好悪い人々」に対する優しい眼差しも好きだ。しかもお笑い芸人らしく、毎回「オチ」がついている。
劇団ひとり、意外に小説家は天職かもしれない。久々に「作家」単位で読破したいと思う人が出てきた。しかしまだデビュー作。さらに今後こなれてきて技量を増すのでは……と考えると、早くも次回作が待ちきれない。