大前研一『ロウアーミドルの衝撃』

ロウアーミドルの衝撃

ロウアーミドルの衝撃

100円ショップの台頭と定着、ニューラグジュアリー(一部の富裕層のための贅沢品とは異なり、一般の消費者でもちょっと背伸びをすれば手の届く新しいタイプの贅沢品)的なコンセプトの浸透、不況だ何だと言われながら一向に衰えないブランド志向……これらは全て世間一般の中流層に起こっている消費傾向であると考えられていた。しかし意識の面でも所得の面でも、もはや「典型的な日本の中流層」が日本のマジョリティだった時代は終わりつつある。日本社会は、ロウアークラスとロウアーミドルクラスがマジョリティを占め、経済的に成功を収めたアッパークラスやアッパーミドルクラスも増殖し、中流層がポッカリと空く――こんな「M字型社会」が到来したと著者は述べている。
「所得構造のM字型の分裂二極化」といった考え方自体は、別に独創的なものでも新しいものでもなく、大前研一以外にも言っている人は何人もいる。またニューラグジュアリー的な消費行動は日本に限られたものでもない(インキュベ日記でも『なぜ高くても買ってしまうのか』というニューラグジュアリーに関する海外の本を取り上げたことがある)。ただ大前研一の熱を帯びた独特の調子で語られると、やはり引き込まれる。たとえその大半が以前の著書で語られた内容であっても、ロウアーミドルという切り口を与えられるだけで、また切実さを増すというのは、やはりスゴい。(もっとも、売れっ子の大前研一がこれだけ何度も執拗に主張しているのに、未だに日本社会に危機感が欠けていることの方を問題にするべきかもしれない。)
個人的には、税体系を「資産課税」と「付加価値課税」の2つに集約するという考えが非常に興味深かった。税や法律に詳しいわけではないが、この方が納得性や透明性も高いような気がするし、何よりもシンプルで良い。税体系や政策に限らず、上手く行かない物事の多くは「体系やルールが複雑すぎること」が主原因だと思う。