村上龍+伊藤穰一『「個」を見つめるダイアローグ』

「個」を見つめるダイアローグ

「個」を見つめるダイアローグ

デジタルガレージで注目していたところに、先日『革命メディア ブログの正体』を読んで、すっかり伊藤穰一が気になってしまった。検索したらどんどんスゴい記述が出てきて、この若さでネット界の大御所というのはスゴいな。前回とほぼ同じ表記だが、伊藤穰一のキャリアを紹介すると、米国のタフツ大学でコンピュータサイエンス/シカゴ大学で物理学を修め、帰国後はネットベンチャーの雄・デジタルガレージを含む幾つかの会社を設立し、インフォシークの日本導入に参画。政府顧問を頻繁に務めるなどIT産業に関する長期に渡る貢献が認められて郵政大臣賞を受賞。現在は、カカクコムやブログ検索のテクノラティ・ジャパンなど10数社を傘下に持つデジタルガレージの顧問にして、ベンチャーキャピタルのネオテニーCEO、シックスアパート会長、さらには古今東西さまざまな企業や団体の経営・運営に参画――とまあ、何度読み返しても自分が哀しくなるほど輝かしいキャリアである。

村上龍は、言わずもがな。『限りなく透明に近いブルー』でデビューし、時代におもねった作品と時代を切り開く作品を絶妙のバランスで発表し続ける。サッカーブームに乗って中田英と仲良くなってサッカーを語り(その前はテニスも語っていた)、坂本龍一と仲良くなって音楽を語り、JMMで金融と経済を語り、その成果を『13歳のハローワーク』で大儲け。近年も『半島を出よ』で国際情勢や政治の問題を日本人の意識と搦めて問題提起。テレビ東京では『カンブリア宮殿』という非常に面白そうな(俺は仕事が忙しく一度も見ていないが……)番組を司会。これ以上脂が乗ってどうするんだというくらい活動している。ちなみに俺は『五分後の世界』『POST ポップアートのある部屋』『だまされないために、わたしは経済を学んだ――村上龍Weekly Report』『啓蒙的なアナウンスメント』あたりが好き。

肝心の内容の方は、伊藤穰一と村上龍が、フランクな雰囲気で、インターネットに限らず、日本や日本人を取り巻く情勢について語り合うという感じ。書名の通り、日本人の「個」としての弱さ/未熟さは何度となく取り上げられており、その都度「まあそうだろうね」とは思う。ただ「はじめに」で、村上龍はこう述べている。

この対談の中で、伊藤穰一はよく「日本は」という主語を使っているが、それは彼が真の国際人だからで、しょうがない。伊藤穰一は文字通り日本を外部から見ているのだ。わたしは彼ほど日本の外側に位置しているわけではないので、なるべく「日本は」とか「日本経済は」という主語を使わないで話すようにした。

実際は、伊藤穰一だけでなく村上龍も「日本は」「日本人は」といった話がかなり多かった。まあ良いんだけどね。つーか説教臭くなければ村上龍じゃないね。

ちなみに注目したのは、IT企業は大きくなると製造業のマネジメントになってしまう――といった指摘。ページ数を忘れたので正確な引用が出来ないのだが、大体このような表現だった。俺の勤務先も、まるで製造業のライン工かと思うくらい、15分単位で行動を制御する。そして機能していない。といっても、俺も俺の勤務先も、一部の先進的なネットベンチャーのようにクリエイティブな領域でクリエイティブに戦っている集団とは質の違う仕事だから、このあたりは考え出すと微妙な問題である。ひとつ確実に言えるのは、IT企業にはIT企業なりの成熟の仕方があるはずなのに、現状そうなっていない、ということなのだろう。