グレッグ・イーガン『祈りの海』

祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)

祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)

新進気鋭(といっても、それは5年ほど前になるが……)のSF作家による日本オリジナル短編集。俺はSF小説をあまり読んだことが無いし、この日記を「SF」で検索してもちゃんとしたSF小説は1冊も出てこなかったので、少なくとも2000年8月以降は読んだことが無い。結局、俺は昔も今もSF小説の良い読者ではなく、せいぜいが漫画やアニメーションのSFや、藤子・F・不二雄のSF(すこし・ふしぎ)程度で満足できる程度なのだと思う。どうも本格SFは「とっつきづらい」印象がある。けれど本書は読みやすい。さすが勢いのあるSF作家と言うべきか、非常に面白いアイデアの短編が多いし、その中のいくつかはアイデアだけでなく世界観や構成も興味深く、なかなか楽しめた。
ところで巻末で解説を書いている瀬名秀明は、イーガンが「アイデンティティの問題」を扱っていることを特筆的に記している。実際イーガンはアイデンティティを主題的に扱っていると思うのだが、SFに限らず、アイデンティティの問題を(中心的・周縁的かどうかは問わず)扱わない現代小説が果たしてどれだけあるのだろうか? そのあたりを考え出すと意外に奥が深い。